電気化学環境下の in-situ 観察においてテラヘルツ領域の振動情報の測定は未開拓な領域である。低振動領域には、電極-分子間の相互作用に関する情報をはじめ、分子間相互作用の情報や水素結合の情報など、比較的弱い相互作用に関する情報が豊富に含まれていると考えられる。したがって、本研究課題では界面敏感な振動分光法の測定領域を低振動数側に拡張し、電極反応機構の解明に役立つ手法を開発することを目的としてきた。これまでに、超低振動領域の計測が可能な顕微ラマン装置の開発を完了し、昨年度までに実際に電気化学環境下での電極表面のその場観察において、100cm-1以下の低波数領域の測定に成功し、表面吸着分子の大振幅振動の観察に初めて成功した。一方で、これらの過程において、電極表面を選択計測するための表面増強効果が、低振動領域のスペクトルに対して好ましくない影響を与えることも明らかになり、その解決が本手法の実用化において重要であることが分かってきた。 平成29年度は、表面増強効果に起因して低振動領域の測定スペクトルに重畳する不要な信号を排除するデータ解析手法の確立に取り組み、詳細な振動情報を取り出すための方法論を確立することに成功した。これにより、背景信号に隠れて見えなかった微小な振動情報も正確に抽出できるようになり、多くの界面構造情報を得られるようになった。また、各種のチオール分子膜に対して系統的な測定を行い、表面吸着種に特有な振動構造情報と分子間相互作用の影響について調査を行った。また、本測定法によって得た金属-分子界面構造情報を元に、界面電子移動特性と界面構造の関係が明らかになった他、表面吸着種の光反応に関して多くの知見を得ることに成功し、界面分光法としての有効性を立証した。以上のように、研究計画に沿った成果を得た。
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