研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池は軽量・安価・柔軟な次世代太陽電池として期待されているが、光電変換効率の向上が課題となっている。光電変換効率は、光吸収、励起子拡散、電荷分離、電荷輸送の効率によって決定されるが、各々の素過程を支配するメカニズムには不明な点が多い。本研究では、第一原理的な電子状態計算と量子ダイナミックス計算を統合し、有機薄膜太陽電池の光電変換機構を理論解析した。有機半導体の分子間の電子・励起子移動を解析する手法を開発した。代表的なモデル系としてポリチオフェンとフラーレンのドナー‐アクセプター界面での電荷分離を解析し、電荷の空間的広がりや励起子(電子‐正孔ペア)のエネルギーの影響を明らかにした[J. Phys. Chem. Lett. 6, 1702-1708 (2015)]。 有機半導体中で一重項励起子が二つの三重項励起子へ分裂する現象はシングレット・フィッションと呼ばれ、一つの光子から二つの電子・正孔対を生成できることから太陽電池への応用が期待されている。三重項励起子の拡散長は一重項励起子より長いため、有機層を厚くできる利点も期待される。ペンタセンやその誘導体の結晶中では超高速の一重項分裂が実験的に観察されている。ペンタセンやテトラセンの一重項分裂の速度は温度に依存しないが、ルブレン結晶中の一重項分裂は熱活性型で数十ピコ秒の時定数で起こる。本研究では、超高速一重項分裂を示すTIPSペンタセンと熱活性型のルブレンに着目して、その対照的なメカニズムの起源を第一原理的にパラメータ決定した量子ダイナミックス計算で理論的に解明した。Phys. Rev. Lett. 115, 107401-1-5 (2015).
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