研究課題
有機薄膜太陽電池のドナー‐アクセプター界面でのフリーキャリアの生成と電荷再結合との競合は太陽電池の内部量子効率を決定する重要な過程である。時間分解分光による測定では数100フェムト秒の超高速電荷分離が観察されており、界面の結晶性がキャリア生成効率に影響を与えることが示唆されている。有機半導体は誘電率が低く静電引力が電子・正孔対を界面にトラップさせる傾向があるため、効率的なフリーキャリアの生成がどのように起こるのかが議論の的となっている。研究代表者は、有機薄膜太陽電池のフリーキャリア生成機構を解明するため、第一原理計算と量子ダイナミックス計算を統合した理論解析を行った。光生成した励起子が界面に局在した電荷移動状態を経てフリーキャリアへ解離する過程を解析し、界面の結晶性による電荷の非局在化の効果と励起子の余剰エネルギーの効果(ホットエキシトン機構)を明らかにした。有機結晶やπ共役高分子などの分子集合体中で一重項励起子が二つの三重項励起子へ分裂する現象はシングレット・フィッションと呼ばれ、一つの光子から二つの電子・正孔対を生成できることから太陽電池への応用が期待されている。研究代表者は、第一原理計算と量子ダイナミックス計算を用いてシングレット・フィッションの理論研究を行った。ペンタセンとルブレンの対照的なシングレット・フィッションのメカニズムを理論的に解明した。また、ヘキサセン結晶中のシングレット・フィッションの量子ダイナミックスを解析し、時間分解分光の実験結果を説明するメカニズムを解明した。さらに、三重項励起子のペアがフリーな三重項励起子へ解離する過程を理論解析し、反応速度と活性障壁の電子的起源を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
研究代表者は、有機薄膜太陽電池のフリーキャリア生成機構を解明するため、第一原理計算と量子ダイナミックス計算を統合した理論解析を行った。また同様の方法論でシングレット・フィッションの理論研究を行った。本研究では、最先端の計算科学的手法を開発し、重要課題である有機系太陽電池の電荷分離機構およびシングレット・フィッション機構の研究に応用した。本研究により、有機薄膜太陽電池の光電変換機構とシングレットフィッションに関して理解を深めることができた。研究成果は世界的にも高く評価されており、ハイインパクト・ジャーナルに複数の論文を発表している[Nature Communications (2017); Nature Chemistry (2017); Physical Review Letters (2015)]。
引き続き、有機薄膜太陽電池の光電変換機構の理論研究を進める。今後は、新しい太陽電池材料の開発のための計算機支援材料設計に力を入れる。このため、新規ドナー・アクセプター分子の設計や候補材料の計算機支援スクリーニングのための方法論の開発を行う。
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すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature Communications「印刷中」
巻: - ページ: -
Nature Chemistry
巻: 9 ページ: 341-346
10.1038/nchem.2665
J. Phys. Chem. A
巻: 120 ページ: 9341-9347
10.1021/acs.jpca.6b09854
J. Phys. Chem. Lett.
巻: 7 ページ: 1327-1334
10.1021/acs.jpclett.6b00277