研究課題/領域番号 |
15K05377
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
城田 秀明 千葉大学, 大学院融合科学研究科, 准教授 (00292780)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオン液体 / フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / 低振動数スペクトル / 分子間振動 / 温度依存性 / イミダゾリウムカチオン |
研究実績の概要 |
一般的な中性分子の液体の分子間振動は温度に依存するが,最近,イオン液体ではアニオンの種類によって分子間振動が直接反映する低振動数スペクトルの温度依存性が大きく異なり,アニオンの種類によっては温度に依存しないという液体としてのアノマリーを示すことが米国テキサス工科大学のグループから報告された。本研究課題では,特徴的な構造を持つアニオンを持つ複数のイオン液体の分子間振動の温度依存性を検証することにより,従来の液体科学では説明できないこのアノマリーを解釈するために,アニオンやカチオンの構造に依存する特性を明らかにすることを目的としている。平成28年度は,平成27年度に行ったイミダゾリウム系イオン液体のアニオン種による低振動数スペクトルの温度依存性への影響に関する研究をまとめ論文として発表した。また,40種類の芳香族性カチオン型イオン液体の低振動数スペクトルをまとめたデータ集的な論文を発表した。進行中の研究に関しては,非芳香族系にターゲットを拡張し,温度依存性の成果が挙がりつつある。例えば,イミダゾリウム系イオン液体とは異なり,50cm-1以上の高振動数側については,温度にあまり影響されないことを明らかにしつつある。また,非芳香族系イオン液体の低振動数スペクトルのデータ集としての実験も進めている。加えて,米国ニュージャージー州立大学ラトガース・Edward Castnerグループとの共同研究も行い,ケイ素を含むイオン液体の特殊な構造についての成果も論文としてまとめている。この共同研究については,イオン液体の合成について主に貢献している。当該研究プロジェクトに関する成果の学会発表は,国際会議で3件(内招待講演2件),国内での学会で9件(内招待講演3件)であった。尚、国内での学会の招待講演の内1件は当研究室の博士課程学生によるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度にイミダゾリウム系イオン液体におけるアニオン種について,(i)永久双極子モーメントを持たない対称性の高いアニオン,(ii)永久双極子モーメントを持つ対称性の低いアニオン,(iii)構造異性体を持つアニオン種,について注目して研究を行い,すべてのイオン液体について,分子間振動スペクトルの温度依存性現れることを確認した。この結果はテキサス工科大学のグループの報告と異なるものとなった。平成28年度は,非芳香族カチオン系イオン液体にターゲットを拡張し,アンモニウム,ホスホニウム,ピロリジニウムカチオンの相違について検討を行った。当初の予定では,これらは最終年度の平成29年の上半期に進める予定であったので,当初の予定よりもうまく進んでいる。 また,上記温度依存性に関する研究に加え,イオン液体の低振動スペクトルのデータをまとめるプロジェクトも行っているが,芳香族系イオン液体について,40種類ものサンプルの測定を行い,芳香族イオン液体の低振動数スペクトルに関する全体像とイオン種の構造に基づいたスペクトルの特徴を明らかにすることができた。また,表面張力,密度,粘度,電導度といったバルク物性についても測定を行い,バルク物性を用いたパラメータと低振動数スペクトルの特性周波数の相関が芳香族イオン液体と中性分子液体では異なることも見出している。この研究成果は論文として平成28年度に発表できた。また,現在は非芳香族系イオン液体についても展開を行っており,17種類の非芳香族系イオン液体の低振動数スペクトルの測定を行うことができた。 このように,現在のところ本研究課題は当初の予定以上のペースで進行しており,研究成果も挙がっているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」で述べたように,研究は予想以上の速さで進み,成果が挙がっている。最終年度の平成29年度は,平成28年度に測定を行った非芳香族系イオン液体のサンプルに加えさらに2~3種類のアニオンの異なる非芳香族系イオン液体について温度依存の実験を行う予定である。これにより,カチオンとアニオンの低振動数スペクトルの温度依存性に対する影響を明らかにできる。また,イオン液体の特徴を明らかにするために,イオン液体を構成するイオンと形状が類似した分子液体(例えば,1-メチルイミダゾール,1-メチルピロリジン,ブチルベンゼン,四塩化炭素等)のフェムト秒分光測定についても試みる。その上で,イオン液体におけるイオン種の構造に基づいた低振動数スペクトルの温度依存性の理解を本研究課題で達成することを目指す。 また,平成28年度には芳香族性イオン液体の低振動数スペクトルのデータ集の構築ができ論文として発表することができたので,平成29年度は引き続き非芳香族性イオン液体についてもフェムト秒ラマン誘起カー効果分光で低振動数スペクトルを測定しそのデータ集を構築したい。イオン液体の低振動数ペクトルの全般的な理解を本研究課題の中で行いたいと考えている。 一方で,本研究課題の成果に基づいて,当該分野における更なる発展のための研究も開始したい。現在,イオン液体を特殊な反応場とした物理化学的な研究にも取り組みつつあり,ある溶質の会合状態がイオン液体中では分子液体中とはどうも異なり,単純な極性パラメータ(電子対許容性)だけで決まるものではないことが明らかになりつつある。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ研究費を使うことができたが、試薬などの購入を節約した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に使う予定の実験試薬を購入する予定。
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