研究期間の最終年度にあたる本年度は、製作したキャビティー・リングダウン分光装置によって600-700 nmに予測されるCH2OOのA-X遷移の探査を続けたが、目的の遷移の観測には至らなかった。電子遷移強度が予測よりも小さい、または等電子分子であるオゾンのChappuis帯のように、スペクトル自体がはっきりとした振動構造を持たないブロードな吸収である可能性も示唆される。また、本研究ではCH2I2/O2混合ガスの放電によりCH2OOを生成しているが、同時にヨウ素分子の生成も避けられない。CH2OOのA-X遷移を探査した600-700 nmのスペクトル領域では、このヨウ素分子が広範囲にわたる吸収を示し、実験感度の向上および目的の遷移の観測・同定を妨げる主な要因となっている。CH2I2の放電で生成するCH2IラジカルとO2との反応は、CH2OOを効率よく生成するために現時点で利用可能な唯一の方法であるが、A-X遷移について更なる探査を進めるためには、ヨウ素を含む前駆体を使用せずにクリーギー中間体を生成する新たな手法の開発が必要であると結論した。 今回のスペクトル探査ではCH2I2前駆体のみの放電で生成する短寿命種の電子遷移が観測されており、CH2Iラジカル以外にも、この短寿命種がクリーギー中間体の効率的な生成に関与している可能性も否定できない。観測された遷移はCH2I+イオンもしくはカルベンCHIに由来していると考えているが、最終的な分子種同定のためにはスペクトルに現れている回転構造を解析する必要がある。その一環としてCHIのマイクロ波分光を行い、基底電子状態の精密な回転定数および超微細相互作用定数を決定した。
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