研究実績の概要 |
共役ポリマーの特性は化学式のみならず精密制御が困難な立体構造や凝集構造にも依存する。本課題では、アルキル(R)鎖で周期的に架橋され等間隔に保持されたall-trans共役鎖の配列であるナノケーブル(NC)の化学・幾何・電子構造の相関と制御要因を検討した。 共役鎖がポリジアセチレン(PD)、ポリアセチレン(PA)、交互に並ぶPDとPAの場合のNC (それぞれ、NC(PD)、NC(PA)、NC(PD/PA))、NCの部分構造であるナノワイヤ(NW(PD)、NW(PA))に対して周期的境界条件を課した第1原理計算を行い、最適化構造およびHOMO・LUMOのエネルギーの差異と顕著なR鎖長依存性を見出し、その起源を論じた。 超高真空下で低温のグラファイト基板に物理吸着したアルカテトラインの単分子層の重合によりNC(PD/PA)を構築し、次の成果を得た。①反応前後の紫外光電子スペクトル(UPS)と準安定励起原子電子スペクトル(MAES)の微細構造を計算結果に基づいてsp炭素・共役鎖のπ・σ軌道とR鎖の擬π・σ軌道に帰属し、上部価電子帯全域の電子構造を明らかにした。②NCのUPSではPAπ性HOMOバンド頂上とPDπ性HOMO-1バンド頂上を観測し、特異な化学構造と高度規則性に基づく異常に小さなイオン化エネルギーを得た。③擬π軌道はエネルギーに応じて電子分布の特性とMAESバンドへの寄与を著しく変えることを見出した。④NC化によるMAESの激変を共役鎖のV字谷化、バンドの分散、共役鎖-R鎖間・R鎖同士の軌道混合の変化で説明した。⑤NC(PD/PA)のSTM観察による周期構造と計算による最適化構造の一致は良好であった。 NC(PA)の構築に必要なモノマーを得るべく、鎖状化合物をモノイン化してチオフェン環の2,5位に置換基として導入後、還元的脱硫反応により炭素骨格を構築する合成法を開拓した。
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