光磁気応答型ドラッグデリバリーや磁気制御人工光合成といった高機能性有機材料への展開にむけて、非イオン性界面活性剤によって構成される二分子膜カプセル(ニオソーム)界面における光誘起電子移動反応の機構解明を行った。 非水溶性の亜鉛ポルフィリン(ZnTPP)とビタミンk1(VK1)をニオソーム界面に吸着させた系において、光照射に伴う長寿命電荷分離状態の生成、および顕著な磁場効果が観測された。この系では光照射をし続けると徐々に寿命や磁場効果が減少する興味深い現象が観測されたが、最終年度はまずこの機構解明を試みた。電荷分離状態の高磁場中における寿命は定常光照射によって短寿命化したが、0磁場中の寿命はさほど大きな変化を示さなかった。高磁場における寿命はニオソームカプセル自体の濃度や添加物質であるコレステロールの濃度によって変化することが明らかとなった。これは、生成したラジカル種が置かれている環境の変化により高磁場中におけるスピン緩和時間が変化したことを示しており、これを定常光照射により誘起できることを示している。しかし、どのような変化が誘起されたかを特定するには至らなかった。今後、動的光散乱やTEMなどの膜形態観察と光照射および分光測定とを組み合わせた測定が必要である。本結果は二分子膜カプセルの形態および磁気特性を光照射によって制御できたことを示唆しており、光磁気応答型ドラッグデリバリーへの応用の可能性を示している。 医療応用を視野に入れた色素の研究も行った。共同研究者から提供されたジアザポルフィリン誘導体の励起三重項寿命を測定したが、有機溶媒中で酸素と顕著に反応する色素でも、イオン性ミセル中では酸素との反応効率が劇的に低下することが明らかとなった。つまり、イオン性ミセルは光線力学療法へのアプローチとしては不向きであることが示唆され、非イオン性カプセルとの比較に興味が持たれる。
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