本研究では、様々な熱力学状態において、水素・重水素・トリチウムの分子間・分子内の構造やダイナミクスに出現する静的・動的な同位体効果を初めて定量的に明らかにした。そのため、640分子からなる水素・重水素・トリチウムの分子凝縮系をそれぞれ用意し、① ノーマル液体(25 K)、② 重水素の凝固点(18.7 K)よりやや低い弱冷却液体(18 K)、③ 強冷却液体(5 K)の特徴的な3つの熱力学状態を作り出した。水素・重水素・トリチウムの全てで同一の温度・密度で比較することで、純粋な同位体効果だけを見極めた。 テスト計算として、すでに実験結果が存在するノーマル液体におけるH-H、D-D、T-Tの結合長や分子振動数の同位体依存性が再現できることを確認した。これにより、一切の経験的パラメータなく、分子凝縮系における微視的な結合長や分子内振動数を様々な同位体で再現できることを示した。その上で、水素・重水素・トリチウムの分子凝縮系に下記の明確な同位体効果が広範な熱力学状態において生じることを見だした。以下、全ての効果は、水素>重水素>トリチウムの順で出現する同位体効果である。 ① 構造がより液化している。② 分子のmobilityが高い。 ③ libration周波数が高くなる。 ④ 低エネルギーの集団的運動の振動数(強冷却液体ではボソンピークに相当)が高くなる。⑤ 平均ボンド長がより伸びる一方で、その分布幅は狭くなる。⑥ 分子内振動数と平均ボンド長の温度による変化がより敏感になる。⑦ 平均核波束幅はより広がるが、その分布幅は狭くなる。 水素・重水素・トリチウムの分子内・分子間の電子ポテンシャルは全て同一であり、温度と密度も全く同一の条件下で比較しているため、上記の同位体効果は、純粋に核由来の同位体効果から発生したものである。本研究では、上記①~⑦の同位体効果の物理的起源もすべて明らかにしている。
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