本研究は、筆者らが独自開発した真空紫外極短パルス(中心波長159および133nm)を時間分解光電子イメージング法に適用することで、気相孤立分子の光異性化反応をリアルタイムに観測することが目的である。最終年度は、二硫化炭素(CS2)のS3電子状態から起こる高速光解離反応の研究を行った。分子内で化学結合がダイナミックに変化するという観点から、光解離反応は光異性化反応と類似しており、本実験手法の有用性を光解離反応について示すことが、当該研究課題を推進していく上で重要であると判断した。ここではまず、133nmの真空紫外極短パルスを用いた光イオン化により、同光解離反応のリアルタイム観測を試み、解離生成物の一つであるS(1D)が生じるダイナミックスを追跡することに成功した(正確には、133nmがS(1D)の自動イオン化状態に共鳴しており、その自動イオン化で生じた電子を検出した)。その結果、S3状態生成後、約400fs後にS(1D)原子が生成し始めるという実験事実を突き止めた。S3状態におけるCS2の反対称伸縮振動の周期が21fsであり、その時間スケールに比べ、CS結合解離の時間(400fs)は非常に長い。このことは、S(1D)原子がS3状態から直接生成するのでは無く、S3状態が他の電子状態へ内部転換し、その状態からS(1D)原子が生じるという電子的前期解離反応が起こっていることを示唆している。以上の研究成果を、米国物理学協会の化学物理系専門誌J. Chem. Phys.にて誌上発表した。その後、さらに研究を推し進め、S3状態生成直後における核波束運動のリアルタイム観測に挑戦した。ここでは、133nmによる光イオン化でCS2の三つのイオン化終状態が観測され、得られた光電子スペクトルの時間変化が前例の無いほどに複雑なものであった。現在、さらなる解析を進めている。
|