現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先に研究を進めていた4TCnS-SAMにおける光励起電子の消失過程の解明では、その4T部位の励起寿命τに顕著なn依存性(奇数のn=3,5,7,9,13において、それぞれτ=0.2, 0.5, 1.2, 1.8, 3.9 ps)が観測された。要因として、Au基板への「量子トンネル機構」、または、光励起で生じた正孔との再結合の際に起こるAu基板への「励起エネルギー移動機構」のいずれかであることが示唆された。そこで、τの変化をアルキル鎖長の違いによるAu基板-4T間距離の関数に置き換えて、両モデルと比較検討したところ、後者の「励起エネルギー移動機構」がその失活過程の原因であることが明らかになった。この成果は原著論文として受理され、物理化学の学術誌に掲載された。 一方、励起寿命τにおけるn偶奇性については、新たにアルキル鎖の炭素数nが偶数(偶数鎖)であるときの測定結果(n=6,8において、それぞれτ=0.5, 1.2 ps)をくわえ、それぞれがn-1(奇数鎖)のτに近い値であることを見出した。この偶数鎖における4T部位の電子状態は、奇数鎖と極めて似ていることから、両者の脱励起機構は同一であり、分子構造の違いによるτのn偶奇性が現れているものと考えられた。そこで、赤外反射吸収分光法(IRAS)を用いて、SAM中の分子配向を調べたところ、4T部位には僅かな偶奇性しか観られなかったものの、アルキル鎖には顕著な偶奇性が確認された。これは、SAM分子のAu-S-C結合部位構造と末端の4T部位の配向の不整合が、偶数鎖の時に大きく、これを緩和するためにアルキル鎖が歪んだものと考えられた。この歪みによって、アルキル鎖層の膜厚は薄くなるため、「励起エネルギー移動機構」おける励起寿命τの減少が生じたものと結論された。以上の結果から、金属-分子膜界面における光励起状態は分子の電子状態のみならず分子の構造にも強く影響を受けることを示すことができた。この研究成果は、既に論文にまとめ学術誌に投稿した。
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