研究課題/領域番号 |
15K05390
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山中 秀介 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10324865)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 反応場設計 / 結合次数の線形応答関数 / 遷移状態構造探索 |
研究実績の概要 |
昨年(2016)度は、結合次数の線形応答関数の定式化、それに基づいた反応場設計の構築の理論スキームの電子可変形式への拡張まで行った。具体的にはT=0KのグランドカノニカルアンサンブルDFTに基づく化学ポテンシャル一定の場合の結合次数の線形応答関数の定式化を行った。またシスプラチンの合成経路で、平面4配位白金錯体[Pt(NH3)Cl]-(1)から[Pt(NH3)2Cl2] (2)への置換反応において、(1)の各配位サイトに摂動を加えた場合の結合次数の揺動を計算したところ、摂動を与えるサイトに関し、結合解離型の揺動の大きさが、NH3隣接サイト> NH3対面サイト>> NH3サイト自身、となり、NH3隣接サイトが反応を起こしやすい事、すなわちシスプラチン合成時のトランス効果を、結合次数の線形応答関数から予見可能を含意する。他、hexan-1-ol and hexa-1,3,5-trien-1-olの計算から有機物の置換基効果である誘起効果と共鳴効果の記述子である事がわかる等、結合次数の線形応答関数の特性を論文発表した。反応場設計に関しては、学会発表時の他研究者との意見交換から、対象とする凝集相や生体系など自由エネルギーが重要となる化学反応における遷移状態の決定という重要な問題に取り組んできた。昨年度報告書にも記載した通り、安息香酸の酸解離の遷移状態の決定をアンブレラサンプリング及びメタダイナミクスで行なってきたが、他のより複雑な凝集系・生体系反応では反応座標の選択やそれを増加させる際の計算コスト(次元の呪い)が問題となる。これを解決する方法としてアンブレラ積分に基づく自由エネルギー地形での反応経路の自動探索という方法を考案し、実装した。この研究自体も反応場設計の重要な1ステップ(反応場設計の対象となる基質遷移状態の決定)に寄与するものであるので、本課題の成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進行度の評価に関しては二点ある。まず当初の予定では、2016年度までにルイス酸塩基型反応の触媒設計並びに、酸化還元反応などの電子可変型化学反応に対する、結合次数の線形応答関数に基づく触媒設計法まで至る予定であったが、まだ確立しているとは言い難い状況である。この理由としては、「研究実績の概要」に記載した通り、凝集相や生体内化学反応で特に熱揺らぎが重要となる場合に、遷移状態の構造を決定する確立された手法論がなかった為、それを本課題の副テーマとして解決する事になった為である。一般にアンブレラサンプリング(US)とメタダイナミクス(MetD)がこの目的のために使用されているが、それぞれ、事前に設定した反応座標空間全域を、冗長に (USは計画的に、MetDは平坦化された地形上の動力学に任せ) 探索する必要があるので問題がある。これに対し我々は、アンブレラ積分法に基づき、局所の自由地形を描いて最小限の計算量で反応経路を自動探索し、自由エネルギー遷移状態を求める方法の考案・実装までに至った。これが評価の第二点目で、反応場設計に必要な結合次数の線形応答関数の計算対象構造である、自由エネルギー地形における遷移状態の決定、の提案に至るという意味で、重大な成果を得たとも言える。この(i) 自由エネルギーに関する遷移状態構造決定法、と(ii)その構造を固定し計算した結合次数の線形応答関数に基づく反応場設計、は、今後、研究の両輪になることを勘案し、(ii)の進行が遅れているが、(i)の大幅な進捗によって「おおむね順調な進展」との評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
本テーマは2014年度に提案した課題であるが、その時点での計画に、自由エネルギーに関する遷移状態構造決定法は確立したもの(ルーチン的に利用可能なもの)として、組み入れていなかった。しかしながら、折しも、同年から科学研究費特設分野研究として「遷移状態制御」という分野が立ち上げられていて、まさに同テーマを解決する為に理論の開発競争がなされている最中にある状況にある。本テーマは本来、量子化学・分子動力学計算では想定された反応場(条件)の下、遷移状態構造の決定(解答)や活性化エネルギーなどの反応を記述する、という問題に対し、逆問題、すなわち遷移状態構造が所与のもの(条件)として、反応を進行させる反応場(解答)を決定するという点が、本質である。しかしながらその研究進行上、自由エネルギーに関する遷移状態構造決定法の確立という、現代の主要な問題とも相互乗り入れをせざるを得ない状況になった。今後は (i) 自由エネルギーに関する遷移状態構造決定法、と(ii)その構造を固定し計算した結合次数の線形応答関数に基づく反応場設計、を共に進めていく予定である。具体的には、2017年度にアンブレラ積分に基づく自由エネルギー地形での反応経路の自動探索に関する成果発表を含め(i)の方法を確立すると共に、進行を保留している(ii)の具体的な種々の化学反応の反応場設計に関しても、(i)の方法を活用し決定した遷移状態構造に基づき応用計算を行い、成果をまとめ論文発表をする段階まで進行する所存である。
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