研究課題/領域番号 |
15K05392
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 晴之 九州大学, 理学研究院, 教授 (90251363)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 理論化学 / 擬縮退系 / 多配置電子状態理論 / シミュレーション手法 / 相対論的電子状態理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての多配置型電子状態理論、および、溶液内あるいは生体内などの環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液積分方程式理論の手法をあわせ開発し、溶液内の生体系・遷移金属系で、従来の方法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、初年度の成果を基に、多配置型波動関数理論である一般化ORMAS-SCF法をの活性空間定義をさらに一般化するとともに、擬縮退理論GMC-QDPT法の新たな近似形式を開発しプログラムを整備した。また、これらの手法を基盤として、(1)分子動力学法および3D-RiSM法によるCBM36の糖鎖結合に対するイオン種依存性の研究、(2)3D-RISM-SCF法によるブルッカーメロシアニンの選択的溶媒和と電子状態に関する研究、(3)3D-RISM-SCF法による金属錯体の溶液内での溶媒和構造および擬縮退電子状態の研究等を行った。(1)では、セルロースやキシラン等の糖鎖を選択的に結合し、酵素の触媒モジュールの基質認識を助ける働きをもつ糖質結合モジュール(CBM)について、分子動力学シミュレーションと積分方程式理論3D-RISM法を用いた自由エネルギー解析を行い、キシラン結合のメカニズムおよびキシラン親和性に対するイオン種依存性の解明を行った。CBM36のキシランに対する親和性は、結合サイトにあるイオンとキシランのヒドロキシ酸素、結合サイト近傍の親水性アミノ酸残基、および、水間の相互作用による自由エネルギー均衡によって決定されることなどを明らかにした。(2)では、3D-RISM-SCF法を溶液内分子への選択的溶媒和の問題に適用し、水/メタノール混合溶媒中におけるブルッカーメロシアニンの励起エネルギーの非線形的挙動のメカニズムを明らかにした。(3)では、3D-RISM-SCF法を用いて3d金属錯体の溶液内での構造、溶媒和構造、擬縮退電子状態を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多配置波動関数理論、擬縮退系の相対論的電子状態理論の開発が計画通り進行した。また、開発した手法を基盤として、生体系・溶液内の遷移金属系への適用を計画通り実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
多配置波動関数理論、擬縮退系の相対論的電子状態理論の開発をさらに進めるとともに、大型溶質分子の構造揺らぎ・電子状態変化に対する溶媒緩和、ヘテロ二核錯体による選択的溶媒和等の課題を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が、計算機関連物品の機種の進歩により高性能化し、安価な製品で十分な性能が得られることとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
電子状態計算、シミュレーションに使用する計算機を高度化するための物品を購入する。また、新たに開催が決定したため当初計画に参加の予定がなかった国際学会で成果を発表するために使用する。
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