研究課題/領域番号 |
15K05392
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 晴之 九州大学, 理学研究院, 教授 (90251363)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 理論化学 / 擬縮退系 / 多配置電子状態理論 / シミュレーション手法 / 相対論的電子状態理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての多配置型電子状態理論、および、溶液内あるいは生体内などの環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液積分方程式理論の手法をあわせ開発し、溶液内の生体系・遷移金属系で、従来の方法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、方法論の開発として、擬縮退摂動論GMC-QDPTを、RISM法とスピン軌道相互作用diabatic摂動論と組み合わせることによる、スピン軌道相互作用と溶媒の両効果を含む形式への拡張、擬縮退摂動論に基づく相対論二成分法の定式化と数値的評価を行った。また、開発した手法を基に、(1)プルシアンブルー・ナノ粒子の吸着サイトに関するイオンサイズ依存性、(2)ATP加水分解反応における水和効果と塩効果、(3)VHH抗体による亜鉛イオン親和性の解析等を行った。 (1)では、放射性Cs+を選択的に吸着する吸着材として期待されるプルシアンブルーについて、電解質溶液中のアルカリイオンの特異吸着を、3D-RIS法を用いて調査した。その結果、小さなイオン(Li+、Na+)は、水・イオン交換機構なしにチャネル入口部位に吸着され、対照的に、大きなイオン(K+、Cs+)は、水・ イオン交換機構によって吸着されること等を明らかにした。(2)では、ATP加水分解に果たす水和の役割、塩の役割について、3D-RISM-SCF理論を用いて、ATPおよびそのモデル化合物であるピロリン酸の加水分解反応の解析を行い、反応系・生成系における水和およびイオンとの相互作用の変化を明らかにした。(3)では、ZnOとVHHの相互作用の詳細を調べるため、3D-RISM法を用い、VHH抗体の周りのZnOおよびZn(II)イオンの分布関数を求め、結合部位および亜鉛の状態の違いによる親和性の変化を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶液内擬縮退系の電子状態理論等、方法論の開発が予定通り進行し、それを溶液内・生体内のいくつかの問題に適用し、成果を得ることができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
溶液内擬縮退系の多配置電子状態に関する研究の一部を論文としてまとめ、成果を発表する。そのため、検証のため高度な追加計算を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
溶液内擬縮退系の多配置電子状態に関する研究の一部(具体的には、銅錯体の溶液内電子状態に関する研究、および、溶液内擬縮退系のスピン・相互作用を取り入れる手法に関する研究)を論文としてまとめるにあたり、次年度、検証のためより高度な追加計算が必要となったこと、および、それらの成果を発表する学会参加、論文投稿を行うことによるもの。
|