研究実績の概要 |
本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての多配置型電子状態理論、および、溶液内あるいは生体内などの環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液積分方程式理論の手法をあわせ開発し、溶液内の生体系・遷移金属系で、従来の方法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、方法論の開発として、擬変分法に基づくRISM-SCFおよび3D-RISM-SCFへの状態平均多配置SCF法の導入、および、3D-RISM法における溶媒分子配向を取り込んだ溶媒和自由エネルギー表式の導出と評価、等を行った。また、これまでに開発した手法を基に、(1)トルエン溶液中のペンタセンジケトンの光解離反応の研究、(2)KcsAカリウムイオンチャネルのイオン選択性におけるイオン間相互作用の研究、等を行った。 (1)では、有機電解トランジスターのp型半導体材料として利用されるペンタセンの前駆体6,13-ジヒドロ-6,13-エタノペンタセン-15,16-ジオンのトルエン溶液中での光分解反応について調査した。その結果、2つの可能な反応経路を明らかにした。1つはS1に励起した後、S1/S0の交差点を経由し、S0状態でC-Cα結合が解離するもの、もう1つはS1からT1に項間交差し、T1状態でC-Cα結合が解離するものである。(2)では、KcsAカリウムイオンチャネルのK+イオンへの選択性に対するイオン間相互作用の影響を調査した。K+イオンの最小自由エネルギー経路に沿った、1つのイオンを陽溶媒として移動させた自由エネルギープロファイルは、K+イオンとNa+イオンの聞にエネルギー的な違いは確認されず、一方、陽溶媒として扱うイオンの数を2つすると、K+/K+とNa+/Na+の組み合わせでは、異なる自由エネルギープロファイルを示すことを明らかにした。
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