チトクロムc酸化酵素(CcO)は酸素の還元反応と共役したプロトンの能動輸送を行う。この酸素還元反応とプロトンポンプに関して、その共役機構の詳細はいまだ明らかになっておらずその解明が最重要課題である。この共役機構を解明するために時間分解の共鳴ラマン分光法と赤外吸収分光法という振動分光法による酸素還元反応の追跡を行った。まず、ラマン分光法では酸素のモデルとしてCOを用い、その光解離過程を追跡することで還元反応サイトの配位子脱着に伴う蛋白質のダイナミクスを調べた。その結果以下の点を明らかにした。まずプロトンポンプ経路に直結したヘリックスにヘムa3が配位した残基が緩和し、続いてヘムa3の位置がシフトすることが起こる。また、このシフトはプロトンポンプ経路の水素結合状態によって影響され、プロトンが少ない(反応の後期過程に相当)では、シフトは小さくかつ遅く起こることがわかった。また赤外分光法では、酸素還元反応の観測を可能にするフローセルシステムが完成し、それを用いた時間分解可視・赤外測定を行い、プロトン化したサイトを観察できる領域を測定することに初めて成功した。こうした反応過程を実時間の赤外吸収での測定が可能になった最初の例である。この中でプロトン放出サイトなどのカルボキシル基のバンドが時間発展にともない、強度変調と波数シフトすることが見いだされた。詳細な解析を行なった結果、反応過程で、(1)プロトン供給部位がまず構造変化し、(2)プロトン放出サイトでプロトンの逐次的脱着と(3)プロトンを貯蔵しているWater poolでの構造変化が反応と同期して起こることを見出した。それぞれの過程が、段階的に起こっておりかつ反応中心での電荷状態と共役して起こっていることも確認できた。この成果はCcOにおいて、緩衝溶液中生理条件下で反応を実時間でプロトンポンプ関連残基を直接観測した世界初の例である。
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