研究課題/領域番号 |
15K05394
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
安池 智一 放送大学, 教養学部, 准教授 (10419856)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共鳴ラマン散乱 / クラスター触媒 / その場観測 |
研究実績の概要 |
昨年度本研究において明らかにしたように,電子運動を利用した高感度プローブにおいて重要となるのは従来言われてきたような探針物質における電子運動の集団性では必ずしもなく,より重要なのは探針の先端の微小化である.その意味で,非常に小さなナノ金属構造体である金属クラスターは,現在増強に用いられているより大きな金属ナノ粒子に比べても遜色ないか,それ以上の増強効果を示すことがありえる.このことは転じて金属クラスターに吸着した分子の高感度な振動分光測定が可能であることを意味する.
このような観点から本年度は,Pt7Oクラスターを舞台に起こる一酸化二窒素の窒素への還元反応のその場観測の可能性について検討した.反応経路に沿ってフリーのクラスターの吸収波長に対応する入射光を用いた共鳴ラマン散乱スペクトルの計算を行ったところ,通常のラマン散乱スペクトルに比べて10の4乗から5乗の増強度が確認され,N2Oの吸着,遷移状態におけるN2Oのベンディング,N2とOの形成,それらの脱離のプロセスがビビッドにスペクトルに反映されることが示された.得られた増強度は,フリーのPt7Oクラスターのラマン散乱の増強度(10の6乗)に比べるとやや小さいが,これは基質の吸着や反応に伴って担体としてのクラスターの構造が揺らぐことに起因しており,適切な入射光を用いれば各々の構造に対して10の6乗程度の増強を得ることが可能である.
クラスターを舞台に起こる化学反応のその場観測が実現されれば,昨今その重要性が増しているクラスター触媒の開発プロセスは一気に精密化することが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度終了時点で設定した「今後の研究の推進方策」においては, (1) 金属クラスターを舞台に起こる触媒反応の電子励起を援用した微視的プローブの可能性の検討および (2) 研究代表者が開発してきた開放系電子状態理論のプログラムへの Coupled-Perturbed Kohn-Sham法の実装を予定していた.前者については上記「研究実績の概要」に挙げたような新たな知見を得ることができた.後者についてもほぼ実装を終えており,全体としておおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
開放系電子状態理論に導入した Coupled-Perturbed Kohn-Sham法を用いて,表面の効果を含んだ形で「クラスターをプローブとして用いる単分子イメージング像」のより現実的なシミュレーションを行う.また,シミュレーションを通じて感度と分解能を両立させるのに適したクラスターの構造および構成元素を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度請求分についてほぼ予定通りの執行を行なったものの,わずかな残額が発生したため,無理に使うよりも,次年度使用分として有効利用することが妥当と考えたため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額が2642円というのは,ほぼ予定通りの執行状況であると考えるので,使用計画に特段の変更はない.
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