研究課題/領域番号 |
15K05395
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
荒木 光典 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 研究員 (90453604)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Cavity Ring Down / 炭素鎖分子 / 芳香族 / Top down / 星間分子 |
研究実績の概要 |
Cavity Ring Down 分光装置を用いて、581nm帯の分光測定を行ったところ、直線炭素鎖分子HC5N+のスペクトルを確認できた。重要な点は、このスペクトルが芳香族分子であるベンゾニトリルの放電によって生成していたことである。それは、芳香族分子から直線炭素鎖分子の生成が可能であることを示す。 これまで高分解能分光研究において、直線炭素鎖分子はアセチレン等の直線構造を持つ分子同士の結合によって生成されていた。今回の芳香族分子からの解離生成は、気相分光検出としては、きわめて異例のことである。 これまで、宇宙空間での星間分子の生成については、原子から大きな分子が成長生成するモデルが主流を占めていた。しかし、宇宙空間でのフラーレンイオンの検出に伴い、大きな分子からの解離生成により星間分子が生成しているとする「Top down」生成モデルも注目されてきている。星間空間の分子雲の中で原子から分子へと成長生成するだけでなく、大きな分子からの解離生成が指摘されている。その大きな分子は、晩期型星星周雲からもたらされたとするものである。本研究の最終目的は、グリシンイオンの分子雲内における発見であるが、これは、有機物の起源を探ることにある。もしこのモデルが正しいとすると、その有機物の起源は、分子雲から星周雲へと遡ることになる。 今回、実験室のスペースシュミレーターにより直線炭素鎖分子の解離生成を再現することができた。これは、実験室での「Top down」生成モデルの検証である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定したグリシンカチオンの測定に向けて、分光装置の整備が進みつつある。さらに、ベンゾニトリルの放電において、直線炭素鎖分子HC5N+の検出に成功した。このスペクトルは当初C7Nのものと予想された。しかし、電極の改良により生成量を増加させ高いS/Nのスペクトルを測定したところ、HC5N+であることが明らかになった。ベンゾニトリルから直線炭素鎖分子が生成することは当初予期していなかったことである。この検出によって、芳香族分子の解離により直線炭素鎖分子が生成するという、これまでに報告例がほとんどない反応経路が観測された。計算によると導入したベンゾニトリルの0.01ppm程度がHC5N+となっていることが明らかになった。これは、これまでの直線炭素鎖分子からの生成と同じ水準にある。よって、本研究から、新しい反応経路が明らかになったため、研究はおおむね順調に進展していると結論できる。 ちなみに、これらの結果は、最終年度における別の炭素鎖分子の調査の必要性を示唆している。また、現在、YAGレーザーの電源に故障が生じているため、修理作業も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2点の測定を計画している。 ① 直線炭素鎖分子HC5N+の検出に成功したことを受けて、HC6H+やC6Hなどの炭素鎖分子も生成している可能性が浮上している。これらを検出することで、芳香族化合物の解離により直線炭素鎖分子が生成することを検証していく。そこから、宇宙空間での同様の解離の可能性を示唆することができる。 ② HC5N+が観測されたことで、C5Nの観測も予想される。C5Nはまだ高分解能測定が行われていない分子であり、その分光定数は明らかにされていない。そこで、その測定を行い、分光定数を明らかにする。すると、この分子によるDiffuse Interstellar Bandsの同定が可能である。もし既存のDIBsと一致しない場合でも、この分子の存在量の上限値を決定することができ、さらに、今後のこの分子の宇宙での検出を可能にする。 ③ レーザーの発振帯域を広げることにより、グリシンイオンの探査を継続的に行う。これにより、グリシンイオンの吸収波長を正確に決定して、DIBsの同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存のYAGレーザーにおける波長帯の拡張により355nmまでの出力が可能であることが分かった。そのため、その光学部品の購入を行った。光学部品は、新規購入よりも安かったために、この金額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
その一方で、既存のYAGレーザーに電源の故障が発生したために、電源ボードの交換を行い、その復旧をおこなう。そのため、必要部品の購入と工賃にこの予算が用いられる。
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