研究課題/領域番号 |
15K05395
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
荒木 光典 東京理科大学, 研究推進機構 総合研究院, プロジェクト研究員 (90453604)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 直線炭素鎖分子 / パルス放電 / Cavity Ring Down |
研究実績の概要 |
Cavity Ring Down 分光装置を用いて、581 nm 帯の分光測定を行ったところ、直線炭素鎖分子 HC5N+ のスペクトルを確認できた。すなわち、この分子は芳香族分子であるベンゾニトリルの放電によって生成していた。それは、芳香族分子から直線炭素鎖分子の生成が可能であることを示す。 本年度は、放電装置の改良を行った。電力供給量能力を強化しコンデンサーも大型化した。その結果、これまで1msしかパルス放電を持続できなかったが、2msの持続が可能になった。そのうえで、HC5N+ の放電条件の最適化を行った。するとバッファーガスに0.3torrのHeを用いると生成の最適条件が得られることが明らかになった。それによって、これまでより詳細なスペクトルが得られた。 その一方で、グリシンイオン、HC5N+、C5N、チオフェノキシラジカル、フェノキシラジカルの量子化学計算でを行うことができた。プログラムパッケージには、Gaussian09Wを用いた。これらの分子に対して、基底状態と励起状態の最適化構造を求めた。そして、励起状態のエネルギーレベルを明らかにした。さらに、フランクコンドン計算を行い、現れる振動スペクトルを予測した。これらのデータを用いて、上記の分子の高分解能測定を行うことができるようになった。 特に、C5Nについては、計算で得られた基底状態と励起状態の回転定数を、HC5N+の実験値計算値の比率を用いて補正した。それに基づき、電子遷移に現れる回転構造の精密予測を行うことができた。 さらに、チオフェノキシラジカルについては、これまで、0-0バンドの強度が著しく強く振動バンドは弱いと考えられていたが、計算の結果、振動バンドの方が強度が強いことが予想された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4月の段階でYAGレーザーの電源の故障があったが、それはいち早く修理することができた。そのためグリシンイオンのスペクトルはまだ検出できないないが、放電装置の強化により、同じ窒素原子を含む直線炭素鎖分子HC5N+の生成がより効率的にできるようになった。 その一方で、グリシンイオン、HC5N+、C5N、チオフェノキシラジカル、フェノキシラジカルの量子化学計算を B3LYP/cc-pVDZ の手法を用いて行うことができた。これらの分子に対して、基底状態と励起状態の最適化構造を求めた。そして、励起状態のエネルギーレベルを明らかにし、スペクトルの出現波長を予測した。さらに、フランクコンドン計算を行い、現れる振動スペクトルの構造も予測した。これらのデータを用いて、上記の分子の高分解能分光測定を行うことができる。 また、C5Nについては、電子遷移に現れる回転構造の精密予測を行うことができたため、スペクトルの出現波長だけでなく、その回転構造まで予測することができた。これにより、これまでよりも容易にスペクトル探査を行うことができるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の3つの測定を計画している。 ① 直線炭素鎖分子HC5N+の検出に成功したことを受けて、炭素鎖分子C5Nも生成している可能性が浮上している。29年度においてHC5N+の放電条件が最適化されたために、今後は、C5Nの検出も行う。C5Nはまだ高分解能測定が行われていない分子であり、その分光定数は明らかにされていない。そこで、その測定を行い、分光定数を明らかにする。この決定によりこれら分子によるDiffuse Interstellar Bands(DIBs)の同定が可能である。
② 今年度の放電装置の強化により、グリシンイオンの生成効率も上昇したはずである。そこでスペクトル探査を継続的に行う。これにより、グリシンイオンの吸収波長を正確に決定して、DIBsの同定を行う。
③ グリシンイオンと共に宇宙空間に存在すると予想されるチオフェノキシラジカルについては、これまでとは異なる振動構造が予想された。そのため、振動バンドによるDIBsの同定の可能性が出てきた。その測定を行う計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
レーザーの故障で、計画に遅れが生じた。 新たに、C5NやチオフェノキシラジカルがDIBsの候補分子として浮上し、それらの測定の必要性が生じた。 また、ここまでの研究結果を国際学会で発表する必要がある。
|
備考 |
総説 荒木光典、“宇宙図を書き換えるフラーレンイオンC60+の発見”、天文月報5月号、印刷中 (2018)
|