研究課題
実験室分光によるアミノ酸・グリシンに加えて、チオフェノキシラジカルに着目した。近年、宇宙空間でベンゾニトリルが観測されたことから、チオフェノキシラジカルは第二のベンゼン誘導体としてその宇宙空間での存在が期待されている。また、生命原料元素である硫黄を含んでいる。チオフェノキシラジカルについては、これまで、――電子遷移において、0-0バンドの強度が著しく強く、振動バンドは弱い――と考えられていた。しかし、本研究による昨年までの理論計算の結果、振動バンドの方が強度が強いことが予想された。今年度は、その振動バンドを分光装置を用いて網羅的に探査した。その結果、予想通りに強い振動バンドが観測された。これらの振動バンドはチオフェノキシラジカルの全対称変角振動6aと非全対称変角振動6bに帰属された。特に、6bの振動バンドは禁制遷移でありながら検出された。しかも、そこに6aの振動モードが結合するという形で検出された。これは観測している励起状態よりもさらに上に位置する励起状態との振電相互作用があるためであることがわかった。それぞれのバンドに対して、回転解析を行い、遷移周波数と回転定数を精密に決定することができた。そのうえで、求めた回転定数を用いて、宇宙天文観測で出現すると想定されるバンドを精密にシミュレーションすることができた。それによって宇宙天文観測で得られているスペクトルとの比較を行った。現状のところ対応する波長帯にピークは確認できなかったが、今回の実験室分光により、今後チオフェノキシラジカルの天文検出が可能になった。また、チオフェノキシラジカルは既に検出・同定されているフラーレンイオンよりも、宇宙空間での存在量が小さいことも明らかになった。
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https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/tsukilab/research_seikanlist.html