研究課題/領域番号 |
15K05398
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
三井 正明 立教大学, 理学部, 教授 (90333038)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 単一分子分光 / 蛍光ブリンキング / 電荷移動 / 電子移動 / 酸化チタン / 蛍光 / 色素 |
研究実績の概要 |
本研究では、単一分子の蛍光ブリンキングから得られるon-time、off-time分布の光子積算時間性の評価とそれらの分布のMLE-KS検定を、高分子膜中や酸化チタン界面に置かれた色素分子が示す蛍光ブリンキングに対して適用した。これにより、“電荷移動に基づくon-time, off-timeの分布を再現する真のモデル関数が何か?”という議論の大前提となる問題について結論を与え、そのような分布がどのような要因によって生じているかを明らかにした。 1. PMMA高分子膜中における色素の光誘起電荷移動:ポリメチルメタクリレート(PMMA)薄膜中におけるペリレンジイミド(PDI)誘導体の蛍光ブリンキングを通じて、PDI-PMMA間の光誘起電荷移動に関する研究を行った。その結果、on-time分布はWeibull関数,off-time分布は対数正規関数で最も良く再現されるという従来の認識を覆す事実を明らかにした。この結果に基づき、この系の励起状態過程のスキームを構築し、その全容を定量的に明らかにした。現在この成果は、アメリカ化学会のThe Journal of Physical Chemistry C誌に投稿中である。 2. 酸化チタン界面における色素の光誘起電荷移動 本研究では,色素-半導体系の界面電荷移動(ICT)が単一の時定数では記述できない “dispersive kinetics”を示す起源を明らかにするため、表面構造の異なる様々な酸化チタン上に吸着させたATTO647N色素のICTに基づくon-time,off-time分布が、どのようなモデル関数で最もよく再現されるかを精査した。その結果、on-time分布はべき乗則関数,off-time分布は対数正規関数で再現されることが分かった。とりわけoff-timeの対数正規分布は、CR過程のエネルギー障壁のガウス分布を仮定するAlberyモデルによって説明でき、電子拡散とCRを連動させたシミュレーションによって、実験結果を完全に再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では下記の3つの取り組み課題をあげ、それらを研究期間中に実現する提案をした。 課題1. 光電流による1 分子計測法の確立 課題2. SMFS 法による低速なヘテロ界面電荷移動ダイナミクスの解明 課題3. 超高速ヘテロ界面電荷移動を起こす吸着色素の挙動の解明 課題2では、色素増感太陽電池における界面電荷移動の解明を目的としているが、そこに至る前段階として、最も単純な部分系である色素/半導体のみから成る系の界面電荷移動過程についてまず精査したうえで、構成要素を1 つずつ段階的に増やしていき、その都度,素過程を精査するという方策をとることを計画した。実際、Atto647N色素と酸化チタンの系に対してこの方針で研究を進め、色素/酸化チタン、ホール輸送材料/色素/酸化チタンといった段階的に構成要素を増やした系に対して,蛍光マルチパラメータの時間変化の測定と蛍光ブリンキングの統計解析を実施し、ホール輸送材料や共吸着剤が界面電荷移動の時定数や不均一性の程度に及ぼす影響を明らかにした。これらの成果を国際論文誌に投稿する準備を現在進めており、課題2はほぼ当初の計画を達成することができた。課題1と3については、互いに関連した課題であり、課題3を行うには、まず課題1の“光電流による1 分子計測法”を確立させる必要がある。これについては、Ru錯体を用いた顕微計測用の色素増感太陽電池デバイス試料を作製し、顕微光照射条件下での光電流計測とその解析法の確立を進め、極微空間での光電流生成に関わる色素数を定量評価できる段階まで到達した。この成果はアメリカ化学会のLangmuir誌に掲載され(M. Mitsui et al., Langmuir, 2015, 31, 7158-7165.)、査読者からはTechnical QualityおよびBroad Interestの項目でTop 5%の非常に高い評価をいただいた。以上のように課題1についても着実に研究が進展しており、H28年度とH29年度の2年間で、当初の計画を全て達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」の欄に記載したように、光電流生成に関わる色素数の定量評価を昨年度で実現したので、H28年度は、光電流による1 分子計測法の確立に着手する。これを実現するためには、光照射領域に存在する色素の数を1分子となるレベルまでに色素の吸着密度を低下させることが必要となる。しかしながら、このような色素増感太陽電池デバイス試料をいきなり作製することは非常に困難であるので、色素の吸着密度を段階的に減少させていく方策をとる。具体的には、色素と共吸着剤(ケノデキシコール酸)の吸着割合を制御することで段階的に色素の吸着密度を減少させ、その都度、光電流顕微計測法によって、光照射領域に存在する(光電流生成に関わる)色素の数を定量評価していく。これにより、できるだけ少ない色素数でより高い光電流を与える試料の作製条件(電解層の組成、酸化チタンの膜厚など)を最適化していき、最終的に1分子検出が可能となる状態まで条件を最適化していく。電解層には、液体の電解液と固体のホール輸送材料を用いるデバイス構造を検討し、吸着色素の脱離の問題についても定量評価を行いながら、適宜作成法の改良を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度に購入を予定していたITO付きカバーガラス(特注品)が、H27年度は購入せずに済んだため、その結果、168,054円を次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し額分は、H27年度に購入しなかったITO付きカバーガラス(特注品)の購入あて、2016年度請求分については、当初の計画に従って主に消耗品費に使用する。
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