研究実績の概要 |
1.すでに本研究課題の実施によって、NMRによるリアルタイム定量解析の方法論を、アルツハイマー病関連のアミロイドβの研究に展開可能であることを見出した。そこで、平成30年度は、「アミロイドβを対象としたNMRリアルタイム定量解析」を前年度に引き続いて行った。まず、「アミロイドβ内のアミノ酸の異性化反応」をリアルタイムで計測した。異性化が起こりやすいアスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸の自発的な異性化反応を、それぞれ同時に計測可能であることを明らかにするとともに、速度論解析の結果、(1)アミロイドβ中に含まれる3つのアスパラギン酸(Asp1, Asp7, Asp23)で異性化の速さが異なること、(2)グルタミン酸の異性化は、通常はAspよりも起こりにくいこと、(3)Aspの異性化は、それぞれ特定のヒスチジン残基によって抑えられていることが明らかとなった。(3)は、アミロイドーシス(線維化)を加速する可能性が示唆されるAspの異性化に対して、これを制御するヒスチジンの役割を明らかにしたものであり、アルツハイマー病など疾患のメカニズム解明と予防に向けた新たな知見として注目される。以上の成果は国内の学会で発表するとともに、論文として取りまとめ、 国際誌に投稿した。また、この夏の国際会議で発表する予定である。
2.さらに、「アミロイドβの凝集過程のNMRリアルタイム計測」を前年度に引き続き行った。アミロイドβの野生型と2種の変異体を用いて、NMRシグナルの変化から、ペプチドの凝集・線維化のメカニズム、特に、線維化を引き起こす引き金となる初期の凝集過程の相違に焦点を当てたメカニズム研究へと展開した。成果はすでに取りまとめて国内の学会で発表を行っており、この夏の国際会議で招待講演を行うことも決定している。また、論文を国際誌に投稿予定である。
|