研究課題/領域番号 |
15K05403
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
島崎 智実 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 研究員 (40551544)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 / 第一原理計算 / バンド構造 / バンドオフセット / 励起子分離過程 |
研究実績の概要 |
近年、クリーンで安全なエネルギー供給に関する社会的な関心が高まっている。有機薄膜太陽電池はシリコン型太陽電池と比べると、製造コストも安く、ロール形状の太陽電池を製造する等の技術により大量生産も可能である。また、軽量かつフレキシブルな特性があることから、建築の屋根材や外壁材といった従来の無機系太陽電池とは異なった利用方法や、有機化合物の多様性を生かした新規なデバイス開発が期待されている。このような背景のもと本研究では、バンド構造の記述に優れた誘電率依存のscreened交換ポテンシャルを用い、有機薄膜太陽電池材料の解析・開発に必要なバンド構造を求める。さらに、第一原理計算よって得られたバンド構造等のパラメータから励起子がホールと電子に分離する確率(収率)を計算することを目的としている。 これまでの研究結果により、ドナー・アクセプター界面に存在するバンドオフセットから過剰なエネルギーが与えられることによって電子が hot state になることが、励起子分離過程においては重要な働きをすることが理論的に明らかになった。ただし、この hot state だけでは励起子は十分に効率的に分離することは出来ない。効率的な分離のためには、hot state に加えて有機薄膜太陽電池の次元性が重要であることが判明した。hot state とデバイスの次元性による効果が協調して働くことが効率的な励起子の分離に不可欠であり、有機薄膜太陽電池の性能を向上させるために重要な要因となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、有機薄膜太陽電池の性能を向上させるために次の2つの事柄について研究を行ってきた。a) 励起子分離過程をシミュレーションするための理論・プログラム開発、b) 有機薄膜太陽電池のバンド構造の詳細なシミュレーション。 a)については、hot state とデバイスの次元性が協調的に働くことが効率的な励起子分離には必要であることを、実際にシミュレーションを実施することによって示した。 b)については、screened HF exchange potential を用いた電子状態シミュレーションプログラムの開発を行った。現在は有機薄膜太陽電池デバイスに実際に使われている分子に対して、開発したプログラムを用いることによりバンド構造のシミュレーションを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
バンド構造(バンドギャップとバンドオフセット)は有機系薄膜太陽電池の動作を理解し、設計を行う上で重要なパラメータとなっている。しかし、従来の第一原理計算手法では、バンドギャップのような太陽電池設計のための基本的な物理量でさえ適切に見積もることは簡単ではない。例えば、マテリアル計算に広く用いられている密度汎関数理論(DFT)の局所密度近似(LDA)では、バンドギャップを過小評価する。一方、hybrid-DFT法を用いれば、バンドギャップの過小評価はある程度は補正されるものの、有機薄膜材を構成する高分子鎖の鎖長に応じたバンドギャップの変化を適切に記述できない等の問題もある。 そこで、本研究では、申請者が開発したscreened交換ポテンシャルを用いたバンド構造シミュレーションを行う。screened交換ポテンシャルは従来のDFT法と比較して、無機半導体のバンド構造に対して良好な記述を与えることが、これまでの研究によって明らかになっている。ただし、有機材料に関してはその適用はほとんどされていない。本研究では、screened交換ポテンシャルを用いて有機薄膜太陽電池材料のバンド構造を詳細に調べるための方法を確立し、実際のシミュレーションを実施することを目的としている。 これまでの研究によって、電子状態計算を行うシミュレーション・プログラムの開発は終了しており、現在は、有機薄膜太陽電池の研究において実際に用いられたことのある分子(ポリマー)に関してシミュレーションを実施している。今後は、計算結果を詳細に解析することによって、有機薄膜太陽電池の材料開発に貢献できるバンド構造の性質を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めた結果、本研究に必要なコンピュータ構成が研究計画発案時に予定していたものと異なることが判明した。本研究では、大量のデータを保存できるコンピュータが必要であることが明らかとなった。必要となるコンピュータ構成を明らかにするための時間が必要であったこともあり、一部の予算を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度では、繰り越した予算を用いてよりデータ保存および解析に適した構成のコンピュータを購入する。
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