近年、有機薄膜太陽電池はシリコン等の無機系太陽電池を代替・補完するものとして注目を集めている。有機薄膜太陽電池はシリコン型太陽電池と比べると、製造コストも安く、ロール形状の太陽電池を製造する等の技術により大量生産も可能である。また、軽量かつフレキシブルな特性があることから、建築の屋根材や外壁材といった従来の無機系太陽電池とは異なった利用方法や、有機化合物の多様性を生かした新規なデバイス開発が期待されている。ただし、実用化にはエネルギー変換効率の一層の向上が望まれている。そのためにはメカニズムを解明し、開発・設計に生かす必要がある。 変換効率を上げるためには、有機薄膜太陽電池のミクロスコピックな動作に基づいたシミュレーション手法の開発は不可欠である。有機薄膜太陽電池のメカニズムは大きく分類して、①太陽光吸収 (Abs.)、②励起子のドナー・アクセプター界面への拡散(Diff.)、③アクセプター領域への電子移動(CT)、④ホールと電子の分離(CS)からなる。 最終年度は有機薄膜太陽電池のバルクヘテロジャンクション構造が励起子の分離過程に与える影響について研究を行った。有機薄膜太陽電池でしばしば採用されているバルクヘテロジャンクションでは、ドナーとアクセプター領域が複雑に絡み合っている。例えば、ドナー材料で形成されるメゾスコピックスケールの島もしくは半島構造がアクセプタ領域の中に形成される。もしくは、ドナー領域がアクセプター領域まで伸びていることもある。このようなメゾスコピックサイズのドナー領域は、アクセプター領域での励起子の解離を妨げる。この効果をシミュレーションにより解析した。また、結果を国際ジャーナル誌上で発表した。
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