AO4型四面体イオンの水素結合ネットワークを持つ無機固体酸塩では液体に匹敵する高いプロトン伝導を示す超プロトン伝導相が出現する。一方、(SO4)2-および(PO4)3-イオンの混合した系Cs2(HSO4)(H2PO4)では、高温で実現した超プロトン伝導相が温度を下げても室温相にもどらず、室温でも高いプロトン伝導を維持する。本研究では、Cs2(HSO4)(H2PO4)における、相転移のメカニズムを微視的に明らかにすることを目的とした。手法として固体NMRを用いた。 Cs2(HSO4)(H2PO4)は-3.9 ppmに単一の31Pシグナルを示し、Pのサイトが1種類であることを示した。Cs2(HSO4)(H2PO4)ではPO4とSO4四面体が1:1で存在し、平均的にはAO4四面体1個あたり3個の水素結合をしていることになる。31P-1H間の双極子相互作用の大きさを測定し、Cs2(HSO4)(H2PO4)におけるPO4四面体まわりの水素結合状態を推定した。比較対象として、CsH2PO4、Na2HPO4を取り上げた。PO4四面体まわりの水素結合の数はCsH2PO4では4本、Na2HPO4では2本である。31Pシグナル強度を1HによってDephasingさせると31P-1H間双極子相互作用が強いほどシグナルが速く減衰する。Cs2(HSO4)(H2PO4)はCsH2PO4と似た減衰挙動を示し、PO4四面体まわりの水素結合の数が4本であることを強く示唆した。 Cs2(HSO4)(H2PO4)の1H NMRスペクトルでは、60 kHzの高速回転により、4種類の水素結合の存在が明らかとなった。Cs2(HSO4)(H2PO4)の水素結合ネットワークが不規則性を内包していることが示された。水素結合の不規則性が特異的な相転移挙動に何らかの影響を及ぼしていると考えられる。
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