研究課題/領域番号 |
15K05406
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
関 和彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 上級主任研究員 (60344115)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 拡散 / 再結合 / 易動度 |
研究実績の概要 |
有機太陽電池を構成する有機固体中では、比誘電率が4程度と低いために、静電エネルギーが遮蔽され難く、正負の電荷がクーロン相互作用の下で再結合を起こし易い。しかしながら、測定されている有機太陽電池の電荷分離効率は、電荷再結合が起こる距離で極端に小さな電荷対再結合速度を仮定しない限り、理論で予想される値よりも高いことが知られている。この極端に小さな電荷対再結合速度により電荷分離効率が上がっているとすると、その効果はクーロン相互作用に匹敵する外部電場をかけた測定結果と理論とを比較することにより検証することができる。本年度は、小さな電荷対再結合速度の下で電荷分離効率の電場依存性を理論的に求めるために、電荷分離状態の再近接距離で、電荷分離の定常流、反応の流れ、拡散流、静電ポテンシャルによるドリフト流の4つの流れの釣合を、境界条件として用い、この方程式の数値解を求める方法を開発した。 以上の方法では、電荷対再結合速度は距離や角度で連続的に変わるとしており、有機固体を構成している分子の構造は無視している。そこで、分子構造を考慮した再結合速度に対する境界条件を分子間の電子移動速度を用いて表し、得られた電荷分離確率をモンテカルロシミュレーションの結果と比較した。 有機太陽電池の電荷分離効率は、再結合速度のみならず、易動度にも依存する。有機固体の易動度は、アウレリウス温度依存性とは異なった温度依存性を示すことが知られている。その原因としては、分子配向や結晶の乱れを制御できないことから静電ポテンシャルが分布しているためであろうと考えられている。本研究では、静電ポテンシャルの分布を考慮し、モンテカルロシミュレーションと有効媒質近似を用いて易動度を導出した。 以上、有機太陽電池の効率に関係する、再結合や易動度について理論的に解析する方法を開発し、既存の実験結果との比較検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、電荷分離状態の再近接距離で、電荷分離の定常流、反応の流れ、拡散流、静電ポテンシャルによるドリフト流の4つの流れの釣合を、境界条件として用い、この方程式の数値解を求める方法を開発した。従来の方法では、流れではなく電荷対が電荷分離する確率を求めている。これに対して、この新しい方法では、無限遠での電荷対の解離の定常流を、再近接距離での電荷分離の定常流に対して求める。この新しい方法の利点は、電荷分離状態の再近接距離での境界条件は、定常流の間の釣合関係で与えられるために電荷分離確率に与える境界条件の効果を直接的に求めることができる点にある。従来の方法で得られた解、および新しい方法による数値解を求める方法の定式化を行った。また、解析的な近似解も導出した。当初計画していた通りこれらの導出を行うことができた。 さらに、有機固体の分子性を考慮した再結合速度に対する境界条件の導出では、分子構造を考慮し、再結合速度に対する境界条件を分子間の電子移動速度、および分子構造に起因する体積因子とトポロジーを用いて表した。一方、モンテカルロシミュレーションにより電荷分離確率を求め、分子構造の違いによる電荷分離確率の相違をこの分子性を考慮した境界条件により説明した。これらも計画通りに進めることができた。 有機固体の分子間電荷移動速度は、フェルミの黄金則に従い電荷の移動前後のエネルギーが一致すると起こるが、ガウス関数で近似できる静電ポテンシャルの分布を考慮し、2次元以上の高次元での易動度を有効媒質近似を用いて近似的に導出しモンテカルロシミュレーション結果と比較した。さらに、得られた式を用いて、高分子および液晶中での易動度の温度依存性の解析を行った。この部分は次年度以降に計画していたが、有効媒質近似理論を解析的に計算する方法を開発することができたので、本年度行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、電荷分離状態の再近接距離で、電荷分離の定常流、反応の流れ、拡散流、静電ポテンシャルによるドリフト流の4つの流れの釣合を、境界条件として用い、この方程式の数値解を求める方法を求めたが、この方法を用いて数値解を求める数値計算プログラムを開発している。外部電場がない場合にはこの数値計算プログラムは完成しているが、外部電場の下では、外部電場の向きに対して初期の電荷分離状態の置かれる角度依存性を考慮する必要がある。数値計算のための次元が一つ増えるため、数値計算プログラムの多次元への拡張を行う予定である。2次元の有限要素法の数値計算については確立された方法があるので、技術的な困難はあっても本質的な問題はないと考えている。 有機固体の分子性を考慮する理論の構築も現在終わっており、モンテカルロシミュレーションの結果を良く説明している。いくつかの代表的な結晶構造について理論と計算の比較を行い、成果をまとめる予定である。 有機固体の電荷易動度について成果をまとめると共に、易動度が有機太陽電池の光電流や光起電力に及ぼす影響を検討する。有機太陽電池はドナー性の分子とアクセプター性の分子の相界面で電荷分離し再結合する。これまでの、それぞれの相内での易動度の知見を生かし、相界面での電荷分離および再結合と、相内での電荷移動を考慮した理論を構築する。有機太陽電池では、効率の観点ではバルクヘテロ構造と呼ばれる複雑な形状の界面を持つデバイスが有利だが、平面の層を重ねたヘテロ構造も物性を調べるために研究が進められている。本研究では、後者の制御された構造を下に理論的に光電流や光起電力を求める予定である。 ヘテロ構造界面での電荷再結合では、界面での分子構造の影響も無視できない。これまで開発した、分子性を考慮した電荷再結合の理論をヘテロ構造がある界面に適用できないか検討する。
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