有機太陽電池を構成する有機固体中では、比誘電率が4程度と低いために、静電エネルギーが遮蔽され難い。そのために、励起子が解離し生成した正負の電荷のクーロン相互作用が強く再結合を起こし易い。電荷分離効率の機構は、クーロン相互作用に匹敵する外部電場をかけた測定結果と理論とを比較することにより検証することができる。有機分子の大きさ、電荷再結合を起こすドナー分子相とアクセプター分子相の界面の構造を考慮し、解析的及び数値計算を用いて電荷分離効率の近似式を求めた。有機薄膜太陽電池の光電変換効率の理論限界を超える方法として、シングレットフィッション太陽電池が提案されている。パルス光弱励起下でのシングレットフィッションにより生成した励起子再結合による遅延蛍光は有機固体の種類に依存せず励起子拡散が本質である普遍的な時間減衰を示すことを提案した。本年度は、結晶の異方性を考慮するために、格子の異方性を考慮する理論的な方法を開発した。有機太陽電池の電荷分離・再結合は分離生成したキャリアの移動を伴う。キャリア移動度は電荷分離や再結合のダイナミクスに影響し、電荷分離・再結合の効率にも影響を与える。移動度は物質定数であると考えられるが、有機太陽電池を構成する有機分子層は、空間的にも、状態密度の観点からも不均一であり、温度、外部電場の大きさ、電荷密度等の測定条件により異なった値を示すことが知られている。電子スピン共鳴(ESR)は、不対電子である伝導キャリアをプローブし、かつキャリアの置かれた分子レベルの微視的な環境に敏感であることから、移動度のミクロな情報を得られる事が期待されている。ESRの測定では、線幅が有機分子層中の移動度と関係している。最終年度は、ESR以外の研究に加えて、有機薄膜のキャリア遷移速度についてはマーカス式を用い、ESR線幅の温度依存性について実験と対応できる形の理論式を求めた。
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