研究課題
本研究では、フェムト秒X線レーザーパルスを用いて液体中の微粒子の構造解析を行い、微粒子の非平均構造と機能の関係を解明することを目指す。X線自由電子レーザー(XFEL)のフェムト秒パルスで試料粒子のスナップショットを大量に記録し、個別粒子の平均構造からのずれを評価する。将来的には、機能を発現している粒子をプローブするためのレーザー分光法と組み合わせることで、構造と機能の相関を明らかにする。さらに、生体試料、有機高分子、各種コロイド試料などを対象とした方法論へと一般化させる。平成27年度の計画は、液相中の試料について、既存の回折実験装置を利用して構造解析の試行実験を実施することであった。このために、液体試料を微小液滴としてXFEL照射位置に導入する手法を開発し、既存装置と組み合わせて実験システムを構築した。試料導入法の開発においては、ピエゾ素子駆動のインクジェットノズル、試料輸送ライン、液滴観察用光学機器、液滴吐出タイミング信号発生器を主要コンポーネントとして導入装置を構成した。XFELを利用しないオフライン試験を行い、液滴の吐出タイミングおよび吐出位置の精密制御、吐出された液滴の高速モニタリングを実現した。試料導入装置の立上げの後、既存の回折実験装置に組込んで実験システムを完成させた。タンパク質の1種であるリゾチームの微小結晶(サイズ5マイクロメートル)を懸濁させた水溶液を試料として用い、XFEL施設SACLAにおいて実験を実施した。わずか30分程度の測定で、4000枚以上の回折像を取得することができた。回折像を解析した結果、0.23ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)の分解能で結晶構造を決定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、試料を含む液体を微小液滴としてXFEL照射位置に導入する手法を開発し、既存の回折実験装置を利用して実験システムを構築した。また、SACLAを利用して構造解析の実験を実施することができた。試料導入装置のオフライン試験およびSACLAでの実験においては、液体中の試料粒子がインクジェットノズルや試料輸送ラインの中で沈殿し、吐出が不安定になる事象が発生した。また、輸送ラインのデットボリュームが大きく、測定に利用されないでライン中に残る試料が多いことも分かった。試料粒子の沈殿を防ぐとともに、試料輸送ラインのデットボリュームを小さくするための改良が必要である。上記のような課題は残ったものの、計画どおり試験的な実験を行って構造解析に成功しており、研究はおおむね順調に進展している。
今後は、試料導入装置を改良して安定動作を実現し、専用の測定チャンバーと組み合わせて回折実験システムを構築する。この専用システムを用い、機能性材料などの試料について研究を推進する。平成28年度は、液滴方式の試料導入装置の改良を行い、長時間にわたって試料を安定に導入できるようにするとともに、試料輸送ラインのデットボリュームを小さくし、測定における試料の消費量を削減する。さらに、測定チャンバーを製作し、専用実験システムを構築する。専用の測定チャンバーに必要な機能は、インクジェットノズル位置の精密調整、ヘリウム雰囲気下でのXFEL照射、液滴のモニターである。したがって、精密位置決めステージ、ヘリウムガス導入ライン、液滴観察用の顕微光学系を備えたチャンバーを製作する。立ち上げた専用装置を用いて構造解析の実験を行うとともに、測定システムの性能を評価する。試料としては、金属ナノ粒子、微小有機結晶などを用いる。また、光学レーザーと組み合わせた実験の試験を実施する。平成29年度には、測定対象を触媒粒子や機能性高分子などの実用材料に展開する。実験手法の適用可能性を検証するとともに、材料のパフォーマンスと平均構造および非平均構造との相関を調べる。また、光学レーザーと組み合わせた時間分解結晶構造解析実験も実施する。以上の実験で得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Acta Crystallographica Section D: Biological Crystallography
巻: 72 ページ: 520-523
10.1107/S2059798316001480
http://www.spring8.or.jp/ja/