研究課題/領域番号 |
15K05408
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研究機関 | 特定非営利活動法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
宮原 友夫 特定非営利活動法人量子化学研究協会, 研究所, 部門長 (70397595)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 弱い相互作用 / DNA・RNA / 光生命科学 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では、高精度理論であるSAC-CI法を基礎として、生命科学に重要な弱い相互作用を理論的に解明することを目的としている。本年度はDNAとRNAの円二色性(CD)スペクトルを計算し、核酸塩基対間のスタッキング相互作用に関する研究を行った。 DNAの CDスペクトルにおいて、295nmの負のピークは、左巻きのZ-DNA で観測されるが、右巻きのB-DNAでは観測されない。一方、RNAでは295nmの負のピークは右巻きのA-RNAで観測されるが、左巻きのZ-RNAでは観測されない。すなわち、DNAとRNAのCDスペクトルは反対の特徴を持っている。そこで、DNAとRNAの4量体モデルを用いて、SAC-CI CDスペクトルを計算して、DNAとRNAの違いを調べた。DNAとRNAのSAC-CI CDスペクトルは、実験CDスペクトルの特徴とよく一致した。すなわち、CDスペクトルの295nm の符号は、Z-DNAとA-RNAで強い負になり、B-DNAとZ-RNAでは正になった。この295nmのピークは核酸塩基対間のスタッキング相互作用を通したグアニンからシトシンへの電荷移動型(CT)励起状態である。Z-DNAとA-RNAの構造では核酸塩基対同士の重なりが大きいため295nmに現れるが、B-DNAとZ-RNAの構造ではこの核酸塩基対同士の重なりが小さいため、CT励起状態が高エネルギー側にシフトするため、295nmの負のピークが消えることが明らかになった。次に、Z-DNAの4量体モデルで、核酸塩基対間の距離を変化させてSAC-CI CDスペクトルを計算したところ、核酸塩基対間の距離の増加とともに、295nmに対応するCDスペクトルの負の強度が弱くなることが分かった。以上のこのことから、295nmのCDスペクトルの負の強度はスタッキング相互作用の強さを示していていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主な目的は、DNAとRNAの弱い相互作用の研究と視物質ロドプシン中のレチナール色素と蛋白質との弱い相互作用の研究を行うことである。 DNAとRNAの弱い相互作用の研究では、研究実績の概要で述べた通り、DNAとRNAの二重螺旋構造の円二色性(CD)スペクトルの理論シミュレーション結果から、核酸塩基対間の弱いスタッキング相互作用がCDスペクトルの295nmの符号や強度をコントロールしていることを明らかにした。 視物質ロドプシン中のレチナール色素と蛋白質との弱い相互作用の研究の目的は、光異性化反応に伴うCDスペクトルの変化から、レチナールと蛋白質との弱い相互作用を明らかにすることである。レチナールの光異性化反応に伴い、ロドプシンは、バソロドプシン、ルミロドプシン、メタロドプシン、と変化する。この構造の理論シミュレーションを行い、その結果から、レチナール色素と蛋白質の弱い相互作用の解析を行っている。これらを勘案して、「(2)のおおむね順調に進展している。」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
視物質ロドプシン中のレチナール色素と蛋白質との弱い相互作用の研究を引き続き行い、レチナールと蛋白質との弱い相互作用を明らかにする。また、レチナール蛋白質であるイオンポンプ型ロドプシンの研究を新たに行う。視物質ロドプシンはレチナール色素がシスからトランスへ光異性化し、この構造変化がG蛋白質へと伝わるが、イオンポンプ型ロドプシンでは、レチナール色素がトランスからシスへと光異性化し、この構造変化に伴ってH+, CL-, Na+などのイオンを膜内(外)から膜外(内)へと輸送する。そこで、イオンポンプ型ロドプシンの理論シミュレーションを行い、レチナール色素と蛋白質との弱い相互作用、イオン輸送機構などを明らかにする。また、老化・がん細胞の増殖に関与しているテロメアの研究を行う。老化やがん化に関与するテロメアは、G-quadruplexと呼ばれる四重鎖構造をしていて、その相補鎖はi-motifと呼ばれる四重鎖構造をしている。DNAの二重螺旋構造の研究と同様に円二色性(CD)スペクトルを計算し、四重鎖構造中で働いている弱い相互作用を明らかにする。
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