研究実績の概要 |
本研究目的は、高精度の励起状態理論であるSAC-CI法を用いて、生命科学に重要な弱い相互作用を明らかにすることであり、本年度は、光駆動イオン輸送ロドプシンに応用した。 細胞膜に存在する光駆動イオン輸送ロドプシンは、光を受けたレチナール色素がall-transから13-cisに光異性化することにより、H+などのイオンが細胞膜間を移動する。H+を輸送するバクテリオロドプシン、Cl-を輸送するハロロドプシンに加えて、2013年にNa+を輸送するロドプシンが発見された。光異性化反応に伴いK,L,M,N,O中間体の吸収スペクトルの変化が観測されているため、これらをSAC-CI法により計算し、3種類のイオン輸送メカニズムの違いについて考察した。 バクテリオロドプシンでは、L,N中間体において、レチナールの近くに存在するアルギニン(ARG82)の回転により相互作用が大きく変化し、吸収スペクトルが変化することが明らかになった。ハロロドプシンは、レチナールのシッフ塩基の近くにCl-が存在しているが、O中間体でCl-は細胞内に取り込まれている。O中間体では、シッフ塩基から移動したCl-の代わりに、シッフ塩基と水素結合している水がOH-となっていることが示唆された。ナトリウムイオン輸送ロドプシンでは、レチナールのシッフ塩基からアスパラギン酸(ASP116)にH+が移動した後、ASP116の回転によるできた空洞をNa+の通過することが示唆された。また、Na+が通過した後に、レチナールは13-cisからall-transに異性化することが示唆された。
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