研究実績の概要 |
有機フッ素化合物は、医農薬や電子エレクトロニクスにおける基盤材料として近年特にその重要性を増している。平成27年度は、ニッケル-ジフルオロカルベン錯体を鍵中間体とするフッ素置換環状シリルエノールエーテルの触媒的合成法を開発した。 これまでの予備的な検討から我々は、ピンサー型NHC配位子を有するニッケル(II)錯体に2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル (TFDA)を作用させると、これまで報告例がなかったニッケル(II)ジフルオロカルベン錯体が発生するとの知見を得ている。このジフルオロカルベン錯体にシリルジエノールエーテルを作用させると、シクロプロパン化を起こす。こののち[3+2]型の環拡大が進行し、α,α-ジフルオロシクロペンタノンのシリルエノールエーテル(フッ素置換環状シリルエノールエーテル)を与える。 α,α-ジフルオロシクロペンタノンの誘導体には、生理活性を有するものが見られる。そこで、種々の置換基を有するシリルジエノールエーテルで、同様の反応を試みた。その結果いずれの場合でも、対応するフッ素置換環状シリルエノールエーテルを収率良く得た。これらフッ素置換環状シリルエノールエーテルの変換も行い、実際に様々なα,α-ジフルオロシクロペンタノン誘導体が得られることを確認した。 また、鍵中間体であるニッケル(II)ジフルオロカルベン錯体も同定した。具体的には過剰量の第一級アミン存在下、ニッケル(II)錯体にTFDAを作用させた。カルベン錯体の発生を示唆するイソシアニド錯体がアミノリシスにより生成していることを、高分解能質量分析により確認した。
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