研究課題/領域番号 |
15K05414
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
渕辺 耕平 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (10348493)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 触媒 / フッ素 / カルベン / 銅 / 医薬 / 農薬 / シリルエノールエーテル / 付加環化 |
研究実績の概要 |
有機フッ素化合物は従来より医薬品や農薬などとして、また最近では有機半導体化合物として、学術・実用両面で重要な役割を果たしている。フッ素置換したカルベン錯体(メチレン錯体)は、これら有機フッ素化合物の高効率高選択的な合成を実現する、有望な鍵中間体である。 平成28年度は、中心金属として銅(I)を有するジフルオロカルベン錯体(ジフルオロメチレン錯体)の調製と利用について、検討を行った。その結果、フェナントロリン配位子を有する臭化銅(I)触媒に対してブロモジフルオロ酢酸ナトリウム(ジフルオロメチレン源)を作用させると、銅(I)ジフルオロカルベン錯体が系内で発生するとの知見を得た。この銅(I)ジフルオロカルベン錯体は、α,β-不飽和ケトンから誘導されるシリルジエノールエーテルと[1+4]型の触媒的な付加環化を起こし、β,β-ジフルオロシクロペンタノンのシリルエノールエーテルを収率良く与えた。鍵中間体である銅(I)ジフルオロカルベン錯体を、第一級アミンで捕捉されたイソシアニド錯体の形で確認することにも成功している。 我々は昨年度の検討において、ニッケル(II)触媒を利用するα,α-ジフルオロシクロペンタノンのシリルエノールエーテル合成法を確立した。今年度の銅(I)触媒による成果は、触媒種を変えることで同一出発物質からフッ素の置換位置異性体の作り分けを可能にしたものであり、有機合成化学上の意義は大きいと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、銅(I)ジフルオロカルベン錯体を触媒種とするフッ素置換環状シリルエノールエーテル合成法([1+4]付加環化反応)を確立し、学術誌に発表した(査読あり)。ジフルオロカルベン錯体が一炭素供与体として作用する[1+4]付加環化反応はこれまで例がなく、学術的に重要な成果であると言える。また、昨年度我々が開発したニッケル(II)ジフルオロカルベン錯体を触媒種とするシクロプロパン化-ビニルシクロプロパン転位と併せて考えると、医農薬として有望なジフルオロシクロペンタノン誘導体の位置選択的作り分けに成功したことになり、実用上の有用性も高い。このように、本研究課題は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
フッ素非置換カルベン錯体においてはほぼ全ての遷移金属元素についてその錯体が知られており、それに応じて反応性も幅広い。我々は、今年度までにニッケルと銅のジフルオロカルベン錯体を利用した触媒反応の開発に成功しており、今後も引き続いて白金等他の中心金属をもつフッ素置換カルベン錯体への展開を継続する。またこれまでは、一炭素カルベン錯体であるジフルオロメチレン錯体の反応を開発してきた。今後はこれを、二炭素カルベン錯体(ジフルオロビニリデン錯体)、三炭素カルベン錯体(ジフルオロアレニリデン)へも拡張したい。
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