研究課題/領域番号 |
15K05416
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
加藤 真一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (70586792)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デヒドロアヌレン / 共役炭化水素 / インダセン / 反芳香族 / ピレン |
研究実績の概要 |
本研究では,申請者らがこれまでに蓄積した縮合多環共役炭化水素の合成及び物性評価技術を活用して,構造的,電子的に新奇な種々のデヒドロアヌレン誘導体を開発し,構造化学及び超分子化学の分野で未解明の問題の解決にアプローチすることに取り組んでいる。 まず,デヒドロアヌレン環外周部の化学修飾による機能化に取り組んだ。具体的には,ナノ相分離を促進する置換基として知られるトリアルコキシフェニル基を有するフェナントレンが縮環したデヒドロ[12]-及び[18]アヌレンを合成した。期待通り,これらにおいては液晶性が発現し,環構造の違いにより液晶温度に差異が生じた。また,これらの自己会合特性を,先に合成したアルコキシ基を有するデヒドロアヌレン誘導体と比較したところ,エチニレンを介してトリアルコキシフェニル基を導入した化合物において,自己会合特性が顕著に向上した。 次に,周辺12π電子系を有するs-インダセン骨格に着目し,これにフェナントレンが縮環した化合物を合成した。その反芳香族性及び諸物性をベンゼンが縮環した既報の化合物と比較したところ,フェナントレンの縮環により反芳香族性が強くなった。これは,フェナントレン9-10結合の結合次数が,ベンゼンの炭素-炭素結合に比べて大きいためと考えられる。この反芳香族性の増大によりHOMOレベルが上昇,LUMOレベルが低下して,HOMO-LUMOギャップが減少した。 昨年度合成した,ピレンが4,5位で縮環したデヒドロアヌレン誘導体の合成を再検討する過程で,ピレン-4,5-ジオンのブロモ化により既知の9,10-ジブロモピレン-4,5-ジオンとともに2,7,9,10-ピレン-4,5-ジオンが生成することを見出した。これを利用して前例が無い2,4,5,7,9,10-ヘキサエチニルピレン誘導体へ導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の項目に関して計画通り研究を行い,概ね期待した成果が得られた。 ・トリアルコキシフェニル基を有するフェナントレンが縮環したデヒドロアヌレン誘導体の合成に成功し,その電子的,電気化学的,および自己集合挙動を明らかにした。これらは溶液(メチルシクロヘキサン中)では100,000 M-1を越える高い会合定数を示し,また固体状態では室温で液晶性を示すなど,アヌレン環外周部の化学修飾により,これまでに合成した化合物にはない性質を引き出すことができた。 ・s-インダセンにフェナントレンが縮環した化合物を合成し,フェナントレンの縮環はベンゼンの縮環よりも強い反芳香族性を誘起することを明らかにした。これは,先のデヒドロ[12]アヌレン誘導体における結果と合致しており,反芳香族化合物の合理的開発において有効な分子設計指針を提供したと言える。 ・ピレン-4,5-ジオンのブロモ化の検討により,2,7,9,10-テトラブロモピレン-4,5-ジオンが得られることを見出した。得られたテトラブロモ体を鍵物質とし,ヘキサエチニルピレン誘導体を初めて合成することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の内容について検討する予定である。 ・デヒドロアヌレンに縮環させる縮合多環芳香環としてはフェナントレンに構造を絞り,更なる物質開拓を行う。具体的には,フェナントレン上の芳香族置換基をトリアルコキシフェニル基からジアルキルアミノフェニル基に変えた化合物を合成し,そのドナー性の増大が諸物性や自己集合挙動に与える効果を明らかにする。 ・環状アルキンとして未踏であるヘキサインやオクタイン架橋部位を有する化合物を合成し,アルキン架橋部位の長さと諸物性の相関についての系統的研究を遂行する。既に予備的検討により,ヘキサイン架橋部位を有する環状化合物が得られることを見出しており,準備状況は良好である。 ・2,7,9,10-テトラブロモピレン-4,5-ジオンの合成条件を最適化し,これを用いて種々の置換基を有するヘキサエチニルピレン誘導体を合成するとともに,比較化合物としてエチニル基の数が少ないものを合成し,エチニル基の数と位置,そしてエチニル基上の残基が諸物性に与える効果を解明する。 以上のように,新奇環状アルキン及び縮合多環炭化水素化合物を創製し,構造-孤立分子物性-超分子物性の相関について包括的知見を提供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室で現有している試薬(金属触媒)と測定機器(電気化学測定装置など),及び学内共同利用機器(高分解NMRや温度可変吸収スペクトル測定装置など)を用いることにより,当初の予想以上に消耗品購入と設備投資が抑えることができながらも,円滑に研究を進めることができたため,29年度に使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
過去2年間と同様に,29年度も研究費は主に消耗品費として用いる予定である。最終年度である本年度も,有機合成と種々の分光法を足掛かりとした研究を遂行する。そのため,様々な有機化合物試薬,有機溶媒,ガラス器具等を随時購入していく。また研究費の一部は,得られた研究成果の学会発表や誌上発表の経費にも割り当てる。
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備考 |
群馬大学大学院理工学府分子科学部門 有機構造化学研究室ホームページ http://nakamuralab.chem-bio.st.gunma-u.ac.jp/
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