研究実績の概要 |
テトライン架橋部位を有する,フェナントレンが縮環したデヒドロ[20]及び[30]アヌレンの合成法を応用することにより,ヘキサイン及びオクタイン架橋部位を有するアヌレン,すなわちデヒドロ[28]及び[36]アヌレンの合成に成功した。これらは,これまでに合成された環状アルキンのうち,最も長いアルキン部位を有する環状共役化合物である。これらの自己会合挙動を調べたところ,アルキン架橋部位の伸長とともに,分子間πスタッキング相互作用が飛躍的に強くなることがわかった。 次に,前年度に合成できた2,4,5,7,9,10-ヘキサエチニルピレンに関して,収率の改善を目的として改良合成経路を探索した。ジヒドロピレンからピレンへと導く際に用いる基質を,従来のジメトキシ体からジヒドロキシ体へ変更することで,脱離性が高くなったことを反映し,収率が顕著に向上した。これにより物性評価に十分な試料量を確保でき,自己集合特性の検討が可能となった。エチニレン上にベンゼン環を有する化合物は,分子間πスタッキング相互作用により溶液中で自己会合した。このうち,長鎖アルコキシ基を有する化合物は液晶性を発現した。 フェナントレンが縮環したs-インダセン(12π系)の類縁体として,ジシクロペンタ[b,g]ナフタレン(16π)誘導体を合成した。ジシクロペンタナフタレン誘導体のテトラクロロエタン中のNMRスペクトルは,高温度域で顕著にブロード化し,その開殻性が示唆された。また,その固体試料のESRは有機ラジカル種に典型的なg値をもつシグナルを与え,この化合物が開殻一重項ジラジカル種であることが明らかになった。今後この化合物を起点として,開殻一重項ジラジカロイドの充足を図る。
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