研究課題/領域番号 |
15K05422
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
小野 克彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335079)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | ホウ素錯体 / 太陽電池色素 / 電荷移動遷移 / 色素吸着 / 電子注入 |
研究実績の概要 |
有機ホウ素錯体はクロモフォアとして優れた性質をもつため太陽電池色素のビルディングブロックとして期待される。本研究では、その特性を効率よく増感作用へ変換するために色素構造の最適化と機能付与を検討した。具体的には、①分子内電荷移動遷移と電子注入の方向を揃えた直線形β-ケトイミネート型ホウ素色素を開発した。また、②クルクミンを配位子にもつβ-ジケトネート型ホウ素色素を開発して、センシング機能と太陽電池特性を研究した。 β-ケトイミネート型ホウ素色素(①)では、4種のπスペーサをもつ直線形色素の開発に成功し、光吸収特性と電気化学的性質を調査した。この結果、既知ホウ素色素と比較してLUMO準位の上昇とHOMO-LUMOギャップの増加が観測された。また、溶液中での安定性が大幅に増大した。これらの特徴をまとめ、日本化学会第97春季年会 (2017)で学会発表を行った。現在は色素の物性評価を終えて太陽電池評価に着手している。 センシング機能をもつホウ素色素(②)では、ソルバトクロミズムおよびpH・超音波照射・陰イオンによるセンシング機能が観測された。この応答は溶液中での挙動であるが、酸化チタン電極上でもその一部機能を観測した。そこで、この機能を活かした太陽電池の研究開発を行った。これらの内容について、第27回基礎有機化学討論会と日本化学会第97春季年会 (2017)で学会発表を行った。 本研究課題はおおむね順調に進行しており、研究課題①では太陽電池評価後に論文作成を計画している。研究課題②について論文を作成中であり、平成29年度前半に投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間1年目の平成27年度は、β-ケトイミネート型ホウ素色素(①)の合成法を開発した。2年目にあたる平成28年度は、形状の異なるπスペーサを用いて4種のホウ素色素を開発した。これらの光吸収特性と電気化学的性質を調査した結果、既知ホウ素色素と比較してLUMO準位が浅く、そのため太陽電池で電子注入効率の改善が期待される結果を得た。πスペーサの種類でLUMO準位とHOMO-LUMOギャップを微調整できることから、これらは太陽電池性能を最適化するのに有効な物質群と考えられる。これまでに色素精製と物性評価を終了したため太陽電池評価に着手した。 センシング機能をもつホウ素色素(②)では、ソルバトクロミズムとpH応答に関する内容を発展させ、超音波応答や陰イオンセンシング機能について調査した。これらセンシング機能の一部が酸化チタン電極上でも観測されたため、これを用いた太陽電池制御を研究した。太陽電池の電解質溶液には様々な物質が存在するため、太陽電池での色素状態を調べて高機能太陽電池の開発を検討した。 以上の2課題において、当初の研究計画通りに進行していること、また、今後の太陽電池評価において良好な結果が期待されることから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の目標は、β-ケトイミネート型ホウ素色素(①)の太陽電池評価である。太陽電池作製と特性評価は共同研究で実施予定であるが、物性データを基にデバイス作製条件を積極的に提案する予定である。主なポイントは、(1)吸着溶媒の選択、(2)共吸着剤の添加、(3)添加剤の有無、(4)電解質(ヨウ素系とコバルト錯体系)の選択である。通常、電解質はヨウ素系が用いられるが、ホウ素色素はLUMO準位が深いため、コバルト錯体系がより効果的である。そこで、ホウ素色素の特徴を活かしたデバイス構成を調査する。直線形β-ジケトネート型ホウ素色素については、色素精製に時間を要している。この対処法としてリサイクル分取HPLCを財団研究助成に申請しており、これが採択されれば早期に精製作業を終えて太陽電池評価に進む予定である。 センシング機能をもつホウ素色素研究(②)では、成果まとめとして論文作成を行う。色素が様々な刺激に対して応答するため、データ収集と評価には細心の注意を払い、本質をつかむことに心掛ける。その上で、高機能太陽電池としてどのような機能が有効であるか現状をまとめる。 本研究ではホウ素錯体の材料応用について知見を深めてきた。最終年度となる平成29年度はホウ素錯体の太陽電池特性について研究を進め、ホウ素錯体物性と太陽電池特性との相関を解明する。その調査結果から、太陽電池色素開発のためのブレークスルーを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は公益財団から研究助成金を受領したため、平成27度繰越金分を平成29年度へ繰り越した。また、平成29年度も同財団から研究助成を得る予定である。そこで、繰越金を課題解決のための戦略的研究費と考え、色素精製用カラムの購入費に充てる計画である。本カラムの導入で研究を加速させ、研究目標の達成を図る。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の助成金は、主に有機合成用試薬(65万円)と合成用・測定用器具(20万円)の購入費用に充てる。また、上記の理由で色素精製用カラム(70万円)を導入する。その他の項目として、成果発表や資料収集を目的とした国内旅費(10万円)、学内機器使用料(10万円)と学会誌投稿料(5万円)を計画している。 本課題では、研究資材を新規ホウ素錯体の開発に投入し、太陽電池色素のブレークスルーを狙う。上記の使用計画はこの目的を遂行する内容となっている。
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