研究課題/領域番号 |
15K05423
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
平井 克幸 三重大学, 社会連携研究センター, 准教授 (80208793)
|
研究分担者 |
北川 敏一 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20183791)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 三重項カルベン / ジアゾ化合物 / メソポーラスシリカ / 光分解 / ESR |
研究実績の概要 |
ビス[10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチルフェニル)-9-アントリル]カルベンは室温脱気ベンゼン中で半減期50時間の最長寿命三重項カルベンであるが、ゆっくりと二量化反応で消失する。この二量化を防ぎカルベンを永続的に存続させる目的で、メソポーラスシリカ内でのカルベンの発生と安定性の評価を行った。カルベンとその前駆体であるジアゾ化合物のDFT計算(B3LYP/6-31G*)から、ジアゾ化合物はメソポーラスシリカMCM-41の細孔(内径2.1-2.7 nm)内に包接可能であり、また、2つのジアゾ化合物が重なり合って内包できないことがわかった。すなわち、細孔内でカルベンが発生した場合、溶液中ではカルベンの主減衰経路である二量化が起こらないことが示された。この前駆体ジアゾ化合物を合成し、このヘキサン溶液にMCM-41シリカを浸漬することによりジアゾ化合物内包MCM-41シリカを調製した。この試料を脱気封管し、ESRキャビティー内で78 Kで光照射(>350 nm)しESR観測したところ、2MTHFマトリックス中観測したカルベンのシグナルとともに、それとは別に三重項種の存在を示す二量子遷移シグナルと330 mT付近に大きなシグナルが観測された。この試料を昇温すると、300 Kでカルベンのシグナルは消失したが、二量子遷移と330 mTのシグナルは室温で220時間後にも観測された。その後、この試料に空気を導入し、内包物を抽出したところ、カルベンと酸素との反応を示す、ケトンとエステル誘導体が生成していることがわかった。これらの結果から、ESRで観測されたカルベンのシグナルはMCM-41シリカの外側に付着したカルベンであり、室温でも存在する二量子遷移を示す三重項種と330 mTの大きなシグナルは、それぞれ細孔内で直線型になったカルベン単独のものとカルベン間で磁気的相互作用したものであると考えることができ、カルベンは細孔内で安定に存在することがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、当初の計画通り、理論計算によるジアゾ化合物とカルベンの体積の見積とジアゾ化合物の合成を行い、MCM-41シリカ中での三重項カルベンの発生をESRで確認し、昇温実験による安定性の検討までを行うことができ、研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、引き続きMSM-41シリカ中での三重項カルベンの安定性を観測するとともに、これを抽出し反応生成物を解析しすることで、カルベンが発生し安定に存在していることの検証を行う。 また、ジアゾ化合物の溶液を極低温下で光分解することによって発生させた三重項カルベンを、カルベンが分解する温度よりも低温で濃縮することによりカルベンの結晶を単離し、ESRを用いてカルベンの特性化と安定性の評価を行う。
|