研究実績の概要 |
最長寿命三重項カルベンであるビス[10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチルフェニル)-9-アントリル]カルベンの結晶状態での安定性を検討した。脱気したジアゾ化合物のトルエン溶液を77 Kで光照射しカルベンを発生させ、-20℃でゆっくりと溶媒留去することによって作製したカルベンの結晶を、真空下25℃で7カ月放置した後、トルエン溶液にしてESRスペクトルを測定したところ、330 mTにカルベンの分解を示唆する二重項種のシグナルとともに、三重項カルベンの存在が観測された。このカルベンは室温脱気ベンゼン中では半減期50時間で減衰することから、結晶化はカルベンを安定化し、材料として利用できる良い方法であることがわかった。 また、カルベン前駆体ジアゾ化合物の自己組織化単分子膜を金基板上に作製し、これを光分解することによって単分子膜上でのカルベンの発生を試みた。 (9-アントリル)(フェニル)ジアゾメタンとアダマンタン骨格を用いた三脚型トリチオールを連結したカルベン前駆体を合成し、マイカ上に真空蒸着した金表面上に単分子膜を作製した。この基板をフェロセニルメタ―ノールを含むベンゼン溶液中で光照射し、サイクリックボルタンメトリーを測定したところ、フェロセンの酸化還元ピークを観測した。これは光照射により発生したカルベンが、フェロセニルメタノールのヒドロキシ基に捕捉されたことにより、フェロセンが観測されたものと考えられる。また、チオールの還元的脱離とフェロセンの酸化電気量から、単分子膜中の30~60%以上のカルベンが捕捉されたことがわかった。単分子膜中と類似のカルベンは溶液中では、ほぼ定量的に二量化することから、金表面上に固定することにより、カルベンが溶液中よりも安定に存在できることを示した。
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