研究課題/領域番号 |
15K05424
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
瀬恒 潤一郎 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10117997)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヘリケート / らせん不斉 / オリゴピロール / 円偏光 / 酸化還元 / 溶媒応答性 / キロプティカル特性 |
研究実績の概要 |
本研究では可視部から近赤外部にかけての長波長領域で作動するキロプティカル分子スイッチの開発を目的として、長波長領域で強い吸収帯を有するヘリカルなπ電子系としての特徴を持つオリゴピロールヘリケートを開発することを目的としている。平成27年度は3,5-ジブロムピリジンと2-ボリルピロールとの鈴木カップリング反応を出発点として、目的のピリジンヘキサピロール-α,ω-ジイミンを合成し、その複核ニッケルヘリケートを得た。イミン部位として(S)-1-フェニルエチルアミン、(R)-1-シクロヘキシルエチルアミンを用いることにより、それぞれ95%,99%のジアステレオ選択性でらせん不斉を誘起することができた。オリゴピロール鎖の中央部にあるピリジン環をN-メチルピリジニウムに変換しても、らせん不斉の偏りは保持された。N-メチルピリジニウム環はテトラヒドロボレートアニオンにより還元されて1,2-ジヒドロピリジン骨格に変化し、酸化剤(DDQ)により元に戻ることが分かった。この酸化還元過程では615 nmと673 nmのCDシグナル強度が大きく変化し、その変化値はそれぞれ400および88 1/M 1/cmであった。このほかに、酸化還元活性部位としてジメトキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンを組み込んだオリゴピロールヘリケートを合成し、その立体構造について検討した結果、95%以上のらせん不斉の偏りを実現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度の研究ではレドックス活性を有するヘリケートの鍵化合物の合成に成功した。特に、N-メチルピリジニウム環を導入したヘリケートに関しては、らせん不斉を極めて高いジアステレオ選択性で一方に偏らせることができた。更に、その還元型と酸化型との間で極めて大きなCDシグナル変化を誘起することに成功し、5回の変換サイクルでもシグナルの変化幅に大きな変化がないことを明らかにした。可視部長波長領域で作動できるキロプティカル分子スイッチは殆ど報告されていないことから、この結果は特筆すべきものである。更に、酸化還元とは別に溶媒効果によっても大きなCDシグナル強度変化が引き起こされることを見出した。NMRスペクトル, CDスペクトル, 計算化学を駆使してその原因を追求した結果、カチオン性のオリゴピロールのコンフォメーションがclosed 型とopen型の間で平衡にあり、その平衡点が溶媒の極性によって大きく変化するためであることを突き止めた。メタノールやアセトニトリル中では完全にclosed型に偏り、弱いUV-vis吸収バンドと大きなCDシグナル強度を示すのに対し、クロロホルム中ではopen型として存在し、UV-vis吸収バンドの強度が倍増しCDシグナル強度が半減した。この溶媒効果によるキロプティカル特性のスイッチング現象は当初の計画では予期していなかったものであり、報告例も少ないので学術的に価値が高い。
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今後の研究の推進方策 |
N-メチルピリジニウム環を導入した複核ニッケルヘリケートに関してはハイドライドの付加脱離による化学的酸化還元に伴うスペクトル変化について明らかにしたが、不活性溶媒中での電極による一電子酸化還元について検討し、どのようなスペクトル変化が誘起されるのかを明らかにする。この場合はN-メチルピリジニウムカチオンが中性のラジカルに変化すると考えられ、ハイドライドによる酸化還元とは全く異なるスペクトル変化が期待される。 平成27年度の研究により、ジメトキシベンゼン、ジヒドロキシベンゼンを組み込んだオリゴピロールヘリケートを得ている。これらニッケルおよびパラジウムヘリケートのらせん不斉の制御について検討し、高いジアステレオ選択性を誘起できる光学活性アミンのスクリーニングを行う。その結果を基にして、これら酸化還元活性ベンゼンスペーサーを持つ一方向ヘリケートの化学的酸化還元および電極酸化還元に伴なうスペクトル変化を明らかにする。 平成27年度に実施したN-メチルピリジニウム環を導入した複核ニッケルヘリケートに関する研究成果を論文にまとめ、学術雑誌に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
キロプティカル特性に関する本研究において最も頻繁に使用する円二色性分散計は設置以来10年を経過するので、オーバーホールが必要とされ、その費用60万円を計上していた。しかし、オーバーホールの事前検査では、交換すべき部品の個数がそれほど多くないことが判明した、結局、この円二色性分散計の整備に要した費用が少なかったことが繰越の生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
・本研究で頻繁に使用するスペクトロエレクトロケミストリー用の石英セル、電極の耐久性が本研究での使用状況ではあまり十分ではなく、更新が必要と考えられる。 ・電子ジャーナルデータベース、単結晶解析構造データベースなどの使用料を必要とする。 ・平成28年度7月のキラリティーに関する国際学会(オーストリア)での講演依頼を受けており、当該学会参加旅費が必要である。
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