研究実績の概要 |
長いπ電子共役系を有する化合物は可視部から近赤外部に至る長波長領域に強い光吸収帯を有しており、光機能物質として重要である。特に、一方向らせんが誘起されたπ電子共役系はその光吸収帯に対応する波長領域での強いキロプティカル特性が期待され、円偏光に基づく新しい光機能材料として有用であるが、そのような例は極めて限られている。 平成29年度では本研究の母体化合物であるヘキサピロール-α,ω-ジイミン金属錯体の可逆的酸化還元に伴うスペクトル変化についてスペクトロエレクトロケミストリーを用いる再検討を行い、その酸化体が1000~2000nmに及ぶ近赤外領域に強い吸収帯を持つことを明らかにした。それらのUV-NIRスペクトルとCDスペクトルは計算化学によるシミュレーションにより検証し、特徴ある一方向らせん構造に由来するエレクトロクロミズム物性を創出することができた。一方、2,3-位、あるいは、2,5-位にOH基を有する1,4-ベンゼンスペーサーはそれ自体で酸化還元活性を有しているが、これらのスペーサーをオリゴピロールのπ電子共役系に組み込んだヘキサピロール-α,ω-ジイミン誘導体の合成をほぼ完了し、それらの金属錯体の立体化学を明らかにした。2,3-位置換誘導体ではクローズ型のラセン構造、2,5-位置換誘導体ではオープン型のラセン構造が安定であり、光学活性アミンとの反応で得られたα,ω-ジイミン金属錯体ではラセン方向も含めて完全な立体制御が可能であることを立証した。特に、用いる光学活性アミンの種類により、それらの立体化学が大きく影響を受けることは、光機能のファインチューニンを可能とする。
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