研究課題/領域番号 |
15K05430
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
林 実 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (20272403)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機リン化合物 / 蛍光化合物 / ホスフィニン / 合成化学 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、平成27年度の4位置換体合成手法検討の結果に基づき、4位に様々な電子的特性を持つ誘導体の系統的な合成と合成した誘導体の物性について検討した。特に申請時に電子状態への影響が少ないと予想していた芳香族誘導体について、系統的な物性検討を行うべく、これまでの方法とは別に、4位臭素化体、ヨウ素化体からの鈴木-宮浦カップリング反応を検討し、収率良く芳香族置換誘導体が得られることを見出した。系統的な誘導体合成の結果、4位芳香族置換体はパラ位置換基の電子効果が蛍光特性に大きく影響することを見出した。そこでより長波長側で発光する4位芳香族置換体の設計と合成を行い、これまでよりも100 nm以上長波長で発光する誘導体の合成に成功した。加えて電子豊富な4位置換基を導入したことにより、得られた誘導体は酸化還元活性を獲得し、酸化還元により発光波長が変化する蛍光体が得られることを見出した。また、合成してきたホスフィニン誘導体は固体状態で比較的高い発光を示すが、一部の化合物については固体状態の方が強く発光する凝集誘起発光特性(AIEE)を示すものがあることを見出した。これまでの検討結果を含め、4位置換ホスフィニン誘導体の蛍光特性についての電子状態・構造と物性の相関について系統的な知見を得ることが出来た。 一方、4位へのヘテロ原子導入についても検討を継続し、4位ホスフィン誘導体の酸化状態による蛍光特性の変化、3価ホスフィン置換基への変換と錯形成による蛍光特性の変化等について基礎的な知見を得ることが出来た。 以上の検討の結果は、得られたホスフィニン誘導体分子が蛍光化学センサ分子として利用できる可能性を示唆しており、今後の応用検討につながる知見が得られたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初の平成28年度研究計画において計画していた、ホスフィニン誘導体の電子状態制御について、新たな合成手法の開発と共に系統的な誘導体合成を行った結果、高効率発光体の発光波長制御に成功し、当初計画で目指していた様々な機能発現について、長波長発光分子の開発、酸化還元活性蛍光分子の開発、金属錯化能を有する蛍光材料の開発、に関する多くの知見を得ることが出来た。このことから、本研究課題は、概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までに得られた知見を元に、平成29年度はより具体的な応用分野を定めて分子設計を行い、応用を目指した検討に入る。具体的なターゲットアプリケーションとしては、金属イオンや生体分子の化学センシング、蛍光標識や環境応答型蛍光ブローブの開発、光応答性分子開発等を想定している。これまでに多くの合成に関する知見、構造活性相関に関する知見が得られており、それらを効果的に利用することで達成可能な応用であると考えられる。 一方、現在までの検討によって得られている誘導体は可視光領域に発光を有しており、近年応用への注目が集まっている近赤外発光分子の合成は達成できていない。そこで上記の応用展開に加え、当初の研究計画を拡張し、より長波長発光を目指した分子開発のために、2,6位置換基の新規変換反応開発と縮環によるπ系拡張にも挑戦する予定である。 また、ここまでで得られた研究成果がまとまってきたため、これらに関し論文発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度購入した試薬を利用した反応が多かったため新規に購入する必要のある試薬が当初想定よりも少なかったこと、および代表者の学会出張が別の研究(新学術領域研究)の発表を兼ねていたため本研究からの旅費支出がなかったこと、が繰り越しが生じた主な理由である。また上記研究計画の通り、平成29年度はより具体的な応用検討に入るため、これまでよりも多くの新しい化合物合成試薬が必要となる他、分析に関して新たな器具の購入や専門家の協力が必要となったりすることを見据えた措置である。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分を含め、平成29年度は上記研究計画の応用展開を行い、経費を適切かつ有効に使用する予定である。
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