本研究の最終年度である平成29年度は、これまでに合成してきたジシアノホスフィニンおよびその4位置換体について、さらなる詳細な構造物性相関を検討するために、芳香族基上の置換基効果による置換基の細かい電子的チューニングを実施するために多数の誘導体を合成し、量子化学計算結果に基づく予測と併せてホスフィニン蛍光分子の設計指針を示すことが出来た。いずれも本研究で確立した新たなホスフィニン合成手法を活かすことで、簡便に多数の電子チューニングを施した誘導体を合成できており、合成手法の汎用性は極めて高いことが立証された。また、得られたホスフィニン誘導体は、概ね量子化学計算による予測通りの物性を示し、新たな蛍光分子の設計指針が充分に機能することも確認することが出来た。 以上のように、研究は概ね当初研究計画通り進めることができており、まずはこれまで得られた結果の概略をまとめて、JACS誌に速報として報告した。 さらにホスフィニン蛍光分子への機能付与を指向した誘導体の合成についても検討を行い、酸化還元特性、ヘテロ元素置換による化学センシング機能、凝集誘起発光特性等を有するいくつかのホスフィニン蛍光分子を合成することが出来ており、これらについてさらに詳細な物性検討を進めることで、各種化学種を蛍光強度や蛍光色の変化として検知することができる蛍光化学センサー分子の開発に繋げることが出来た。蛍光変化による検知の感度や検知化学種の種類、また生体分子への組み込み等、実用化までに改善すべき機能、性能が残っているが、本研究において最終目標としてきた、全く新しい蛍光化学センサー分子としてのホスフィニン誘導体の応用可能性について、充分可能性を示すだけの知見が得られたと言える。
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