研究課題
有機分子触媒は金属元素を含まない炭素,酸素,窒素などの典型元素から構成された触媒である.有毒な重金属の残留の心配がなく,レアメタルの高騰,枯渇などの社会的問題に対応する元素戦略の観点からも理想的な触媒である.しかしながら,この触媒反応では水素結合やファンデルワールス力といった弱い相互作用で選択性が制御されており,その合理的な設計は困難である.我々は密度汎関数法(DFT)に基づく配座解析法を提案しており、複雑な有機分子触媒の反応機構の解明に有効であることを示した.この方法ではモンテカルロ法と分子力学法(MM, OPLS2005)による構造最適化から数千から数万の初期構造を生成し,これを半経験的分子軌道法(semiempirical, PM6-DH+)により数百にまで絞り込む.これらの構造すべてについて,計算コストが高くなるが精度の高い量子化学計算(DFT, B97-D)により構造最適化および遷移状態探索を行うことで,エナンチオ選択性の理解に重要な遷移状態の最安定構造を決定することができる.しかしこの方法では計算コストの高いDFT計算を多用することに加えて,MM計算の精度が低いために安定構造を見落としてしまうことが問題であった.DFT計算で決定された上位5配座は半経験的分子軌道法で得られた上位の低エネルギー配座に対応しているが,MM計算では11.5 kcal/molのエネルギーをもつ205番目の配座まで考慮する必要がある.そこで本研究では信頼性の高い半経験的分子軌道法を用いた配座解析プログラムConFinderを開発し,有機分子触媒の反応機構の解明が短時間で精度良く行えることを見出した.
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、有機分子触媒の反応機構解析のために、高精度な配座解析を高速に行うための手法開発を予定していた。当該年度において、信頼性の高い半経験的分子軌道法を用いた配座解析プログラムConFinderを開発し,有機分子触媒の反応機構の解明が短時間で精度良く行えることを見出した.このプログラムを用いることで、丸岡触媒、キラルリン酸、シンコナアルカロイドといった代表的な有機分子触媒について、過去に報告された構造を2,3日と短期間で精度よく再現するとともに、これまで見落とされていたより安定な配座を発見することができた。これらの結果は有機分子触媒の高速なin silicoスクリーニングを期待させ、想定以上の成果と言える。
これまでに信頼性の高い半経験的分子軌道法を用いた配座解析プログラムConFinderを開発した。今後は、未だ反応機構が知られていない有用な有機分子触媒について、このプログラムを用いた解析を行うとともに、実験グループとエナンチオ選択性の改善を目指した研究を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Chemistry Letters
巻: 45 ページ: 149-151
DOI: 10.1246/cl.151004
Dalton Transactions
巻: 45 ページ: 3277-3284
DOI: 10.1039/c5dt04109k
Inorganic Chemistry
巻: 55 ページ: 1287-1295
DOI: 10.1021/acs.inorgchem.5b02598
Journal of Chemical Information and Modeling
巻: 56 ページ: 347-353
DOI: 10.1021/acs.jcim.5b00671
巻: 55 ページ: 2771-2775
DOI: 10.1021/acs.inorgchem.5b02603
Journal of Materials Chemistry A
巻: 3 ページ: 746-755
DOI:10.1039/C4TA05496B
The Journal of Physical Chemistry C
巻: 119 ページ: 8748-8754
DOI:10.1021/acs.jpcc.5b01325
Physical Chemistry Chemical Physics
巻: 17 ページ: 24791-24802
DOI:10.1039/C5CP03456F
Nature Communications
巻: 6 ページ: 8810
doi:10.1038/ncomms9810