研究課題
第三の触媒として注目を集めている有機分子触媒は金属元素を含まない炭素、酸素、窒素などの典型元素から構成された触媒である。有毒な重金属の残留の心配がなく、レアメタルの高騰、枯渇などの社会的問題に対応する元素戦略の観点からも理想的な触媒である。この触媒反応では水素結合やファンデルワールス力といった弱い相互作用で選択性が制御されており、その合理的な設計は困難である。前年、半経験的分子軌道法を用いた配座解析プログラムを独自に開発し、有機分子触媒反応の解析にかかる計算時間の大幅な短縮に成功した。平成28年度は、このプログラムを用いて、最近報告された1,2,3,4,5-ペンタカルボメトキシシクロペンタジエン(PCCP)による不斉マンニッヒ反応の反応機構を解析した。このプログラムを用いて主生成物、副生成物を与える配座(以下major、minorとする)をそれぞれ9357、6253個得た後、それら全てについて一点計算を行った。それぞれ安定な配座50個ずつについて、結合が生成する炭素間距離を2.0 Åで固定した上でB97-D法により構造最適化を行った。さらに安定な30個ずつの配座について、PBEh-3c法により同様の方法で構造最適化を行った。基底関数にはTZVPを用いた。最後に安定な20個ずつの配座について遷移状態探索を行った。その結果、majorとminorの最安定な配座のエネルギー差3.79 kcal/molにより、高いエナンチオ選択性を説明できることが判明した。このエネルギー差の原因を明らかにするために、各配座の遷移状態について、触媒および基質のみを抜き出しそれぞれ一点計算を行った。安定な遷移状態においては、触媒がより安定な配座を有していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、高性能な有機分子触媒の反応機構の解明を予定していた。当該年度において、1,2,3,4,5-ペンタカルボメトキシシクロペンタジエン(PCCP)による不斉マンニッヒ反応の反応機構を解析し、97%eeの高いエナンチオ選択性の原因を明らかにできた。現在、投稿準備中である。
今後は、未だに反応機構が知られていない有用な有機分子について解析を行うとともに、実験グループとエナンチオ選択性の改善を目指した研究を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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