研究課題
本研究ではドナー・アクセプターを置換したシクロオクタテトラエン(COT)誘導体の光化学や構造化学に関する基礎データを蓄積し、新たな機能性有機材料の創成を目指す。申請者が確立した8員環誘導体合成法を活用して、当該化合物の簡便かつ実用的な合成を確立するとともに、本法を適用して様々なπ拡張型COT誘導体を合成する。紫外可視吸収、蛍光発光、酸化還元電位、包接能、溶液中での反転やねじれに関する挙動、結晶中での分子配列等、実験的アプローチと計算化学を駆使した理論的アプローチから、発見と理解の深化を通じて新機能材料の開発に挑む。今年度は、入手が容易な原料を用いたドナーアクセプター型シクロオクタテトラエン誘導体合成法を確立した。また、紫外可視吸収、蛍光発光、酸化還元電位を測定し、分子構造との相関関係を明らかにした。ジベンゾシクロオクタテトラエンの希釈溶液に紫外線を照射した際には、強い蛍光を発することが確認された。また、再結晶から結晶に紫外線を照射した場合にも比較的強い蛍光発光が確認された。興味深いことに、再結晶から得られた結晶を乳鉢ですり潰した粉末では、蛍光発光が長波長シフトするメカノクロミズム現象が観測され、再結晶と乳鉢での摩砕を繰り返すことで、可逆的に発光波長を切り替えることに成功した。一方、八員環の反転を利用した「疎水的なベンゼンキャビティ」あるいは「親水的なトリアゾールキャビティ」による包接能の開発については、環反転のエネルギー障壁が大きく、実現していない。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はシクロオクタテトラエンテンプレート骨格の実用的な合成法を確立した。今年度は、このテンプレートを用いて、ドナーやアクセプターなど種々の電子的効果を示す置換基で置換したジベンゾシクロオクタテトラエン誘導体の合成に成功した。得られた誘導体は、環上の置換基の立体障害によって環が反転できないことが、ab initio化学計算を利用することにより明らかになった。また、固体状態のジベンゾシクロオクタテトラエン誘導体に紫外線を照射した際には、比較的強い蛍光が観測された。また、結晶を乳鉢上でこすった場合に、その蛍光発光の波長と蛍光量子収率が変化するメカノクロミック現象が観測された。これらの一連の結果を学術論文としてまとめることができた。
π共役系をさらに拡張した誘導体の合成法を確立するとともに、新たな光学材料としての可能性を探る。また、シクロオクタテトラエンを反芳香族化合物の前駆体として利用することで、新たなπ拡張化合物の創製へ繋げたい。
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