1.タングステンシリリン錯体によるメタセシス類似反応の発見:金属―炭素三重結合錯体であるカルビン錯体の化学において、不飽和有機化合物との[2+2]環化付加反応を経て多重結合の組み換えを起こすメタセシス反応は、最も重要な反応の一つである。しかし、ケイ素化合物のメタセシス反応は未だ見つかっていない。今回、1価のケイ素化学種であるシリリンがタングステンに配位した錯体がアルデヒドとの反応において、連続した [2+2]環化付加と分子内ホルミル水素移動により4員環メタラサイクルを与え、この錯体から加熱により結合組み換え反応が起こることを見出した。これは、メタセシスに最も近い反応であり、ケイ素化合物のメタセシス反応開発に大きな一歩を踏み出したといえる成果である。 2.モリブデンシリリン錯体の合成と[2+3]環化付加反応:モリブデンのシリリン錯体の合成に成功し、二量体の結晶として単離した。この錯体は、溶液中では単量体との解離平衡にあり、単量体に大きく偏っていることを明らかにした。この錯体はタングステン錯体と同様に、アルキン類と[2+2]環化付加反応を起こし、4員環のメタラシラシクロブタジエンを与えた。興味深いことに、この錯体はトリメチルシリルアジドや1-アダマンタンアジドと速やかに反応し、これまでに前例のない3員環錯体であるシライミノアシル錯体を与えた。この錯体は、シリリン錯体として初めての[2+3]環化付加反応の後、窒素分子の脱離を経て生成したと考えられる。 3.モリブデンゲルミリン錯体の合成:モリブデンのヒドリド(ヒドロゲルミレン)錯体とイソシアナートとの反応から、中性のモリブデンゲルミリン錯体の合成に成功した。興味深いことに、イソシアナートの代わりにニトリルを用いても、同じゲルミリン錯体が得られることを明らかにした。これはタングステン類縁錯体では起こらなかった反応である。
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