研究課題/領域番号 |
15K05448
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
柘植 清志 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (60280583)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発光性配位高分子 / 銅 / 銀 / d10 / 混晶 / 複合化 / 外部応答性 |
研究実績の概要 |
本研究では{Cu2I2}骨格を持つ強発光性銅(I)錯体に関する研究を踏まえ、ジホスフィン配位子の利用および混晶形成により外部刺激に応答する発光性錯体の合成を行う。具体的には、 1. {Cu2I2}単位をジホスフィン配位子で連結した配位高分子の合成、2. 外部応答性を持つピリジン誘導体配位子を持つ複核銅(I)錯体の合成、3. 混晶化による新規発光性錯体の合成を行う。本年度は、3を中心に研究を進めた。 昨年度までに合成した架橋配位子混合型錯体について、詳しく物性の検討を行った。ビスピリジルエタン(bpa)-ビスピジルエチレンを持つ架橋配位子混合型ヨウ化銅錯体では、僅かのbpeを導入した際にbpeサイトに特徴的な発光帯が観測される。ごく少量混合した(分率0.01未満)際にbpa錯体由来の発光帯の極大がシフトすることが観測されていたが、bpa単一錯体の発光減衰を詳しく検討することにより、bpa単一錯体が二つの励起状態を持ち、これの高エネルギー帯から効率よくbpeサイトへエネルギー移動が進行していることを明らかにした。4,4-ビピリジン(bpy)と4,4'-ビピぺリジン(bipip)を持つ架橋配位子混合型ヨウ化銅錯体ではbpy分率が0.1程度で発光量子収率がbipip単一錯体およびbpy単一錯体よりも大きくなり、混晶化による発光強度の増加がみられることがわかった。対応するbipip-bpy混合架橋銀(I)錯体については発光寿命の検討も行い、前年度の発光スペクトルの結果とあわせ、混晶化により低温に近い状況すなわち構造揺らぎの減少が起こっていることが示唆された。これらの事からbipip-bpy混合系では、銅錯体・銀錯体とも混晶化によりbpy発光サイトの構造安定化が起こっていることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ジホスフィン配位子の利用および混晶形成により外部刺激に応答する発光性錯体の合成を行う。具体的には、 1. {Cu2I2}単位をジホスフィン配位子で連結した配位高分子の合成、2. 外部応答性を持つピリジン誘導体配位子を持つ複核銅(I)錯体の合成、3. 混晶化による新規発光性錯体の合成、を行い、これらを組み合わせることにより、結晶状態でエネルギー集約能を持ち外部応答性のある発光性錯体の合成を目的としている。昨年度において、ジホスフィン配位子を持つ錯体の合成の可能性を示すことができた。また、銀錯体も含めbpa-bpe, bipip-bpyなど同形混晶系では新たな混合系の開発も進めてきた。本年度は昨年度得られた同形混晶の物性に関する検討を進め、bpa-bpe混合系,bipip-bpy系ではエネルギー集約能がある可能性を見出した。また、bipip-bpy混合系では、混晶化が温度変化に対応する変化を引き起こしているという新たな可能性を見出した。このため、おおむね順調に研究は進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も計画通りに研究を進行させる。ジホスフィン配位子を持つ錯体に関しては、1,5ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン錯体の合成法の確立を進める。同形混晶化に関しては、エネルギー集約が起こる可能性が示唆されたbpa-bpeおよびbipip-bpy架橋配位子混合型錯体について検討する。特にbipip-bpy錯体に関しては、低温での発光スペクトル、発光寿命の測定を行い、混合比率の温度変化に対応した挙動を明らかにする。また、異形混晶化についてbpa錯体、bipip錯体を基盤として合成を進める。動的挙動の検討には、安定な骨格で同時に揺らげるサイトを持つ化合物が必要であり、安定な骨格を持つbipip錯体、bpa錯体についてピラジン、アミノピラジン、ピペラジンなどより小さい架橋配位子を導入した化合物の合成と物性検討を行う。これらの錯体において、導入した配位子の混合比率を効率よく決定する方法も検討し、混合比率と物性変化については定量的な議論を可能にする。また、より大きなサイトを作る可能性のあるbpp錯体を利用した混晶化も試み、親構造と導入される配位子による生成する異形混晶の安定性についてを検討する。これらの知見をもとに、単座配位子を導入した異形混晶の物性を検討する。単座配位子としては、ピリジンカルボン酸など配位部位に加え外部刺激応答部位を持つものを用いる。これらの検討により、エネルギー集約に適した系を明らかにすると同時に、結晶状態で外部刺激に応答する発光性化合物の合成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、物品費744002円、旅費20万円、人件費・謝金10万円、その他20万円として予算計上したが、全体としては物品費に多く充てることになり、物品費以外の費目を物品費に充当した。その結果65790円が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究進展状況を考え、65790円は主に、試薬、ガラス器具購入の物品費に次年度分と合わせて充てる予定である。
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