研究実績の概要 |
申請者はこれまでにポルフィリンやポルフィセンなどの大環状配位子を含む金属錯体の関与する配位子置換反応,光化学反応,電子移動反応などの反応を各種分光法を用いて研究して,その反応機構の観点からその反応性を支配する要因を明らかにしてきた。その中で,亜鉛(Ⅱ)ポルフィリン錯体の周辺部に2,2’-ビピリジンを結合させた複合系に関して,メタノール中で銅イオン(Ⅱ)を共存させたときにポルフィリンの蛍光が消光されること,また,その原因がポルフィリンの励起状態において光誘起電子移動反応にあることを見いだした。今年度の研究目的は,光誘起電子移動反応と逆電子移動反応と逆電子移動反応に関して,反応の量子収率や反応性などの構造活性相関の議論を精緻化し,光誘起電子移動反応の反応性を支配する要因,および,電荷分離状態の長寿命化の条件を明らかにすることである。 さまざまな原子団ポルフィリンと2,2’-ビピリジンの間にさまざまな原子団(飽和炭化水素,不飽和炭化水素,芳香族の原子団)を挿入した7種類の分子複合系を用いて,ナノ秒レーザー分光装置に加えて,サブナノ秒の時間分解能の装置を利用して,励起一重項状態と励起三重項状態での光誘起電子移動反応の反応性を明らかにした。特に,これまでナノ秒レーザー分光装置では観測が難しかった励起一重項状態の失活や光誘起電子移動反応を直接観測することに成功した。電荷分離状態の長寿命化の点では,不飽和炭化水素または芳香族の原子団により反応中心間の距離を長くすることが有効であることを見いだした。これらの知見に基づいて,長寿命の電荷分離状態の生成条件を考察した。
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