研究課題/領域番号 |
15K05452
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井頭 麻子 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (20379275)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 超分子化学 / 金属錯体化学 / イオン性固体 / 分子認識 / 合成化学 |
研究実績の概要 |
本研究は、カチオンアニオン相互作用を利用し、構造および物性、それらの変換挙動、分子認識挙動が対イオンにより制御されるイオン成長分子錯体の創成を目指すものである。カチオン性金属錯体とアニオン性金属錯体から構成されるイオン性固体を研究対象としており、より積極的に弱い相互作用サイトを導入することによってイオン間相互作用を制御し、複雑な構造を有する対イオンを利用したイオン性固体化学を展開し、機能性開発を目指している。 平成27年度は、弱い相互作用サイトを導入した金属錯体モチーフの構築を行った。まず、水素結合サイトを導入した配位子系の構築を目指した。具体的には、脂肪族チオール配位子系へ水素結合サイトを導入したもので、水素結合アクセプターサイトとしてカルボキシ基を、水素結合ドナーサイトとしてビグアニド部位をもつ配位子を設計した。この配位子を用いて、非対称な分子構造をもつ硫黄架橋環状ニッケル(II)三核錯体を合成した。この錯体は無電荷であったが、導入した水素結合サイトを用いて自己集合化し、大きな空孔を有する強固な三次元水素結合ネットワーク構造が形成されていた。この空孔を利用して、キラル選択的な金属錯体の取り込みにも成功している。さらに、このニッケル(II)三核錯体は、より小さな分子構造をもつ対称性の高い硫黄架橋ニッケル(II)二核構造へと構造変換することも見出した。一方、疎水性相互作用サイトを導入した金属錯体モチーフの構築も目指し、ボウル状の空孔をもつ混合原子価銅四核錯体の合成を行った。この錯体はアニオン性であり、その空孔にアンモニウムカチオンを取り込んでいる。アンモニウムカチオンの種類を変えることや、配位子への置換基導入によって銅イオン間の磁気的相互作用の制御を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、弱い相互作用サイトとして水素結合サイトを導入し、目的どおりに水素結合ネットワーク構造を構築することに成功した。合成したニッケル錯体は、その水素結合形成に由来して構造変換することも示した。また、この構造は大きな空孔を有しており、これを利用して金属錯体のキラル選択的な取り込みといった機能性の発現にも成功している。一方で、この錯体は無電荷であり、イオン性固体の構築という目的の達成には至っていない。また、疎水性相互作用サイトを導入した系においては、アニオン性の金属錯体モチーフの構築に成功している。この錯体モチーフは、カチオンの種類や配位子の置換基導入によって物性を制御することが可能であり、今後の機能性イオン性固体の創成を目指すにあたって利用価値のあるモチーフであると考えられる。以上のような研究進捗状況であり、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、水素結合ドナーサイトとしてビグアニド部位をもつカチオン性多核金属錯体として、ニッケル(II)二核錯体とコバルト(III)四核錯体の合成に成功している。一方、アニオン性錯体として、含硫アミノ酸であるペニシラミンやシステインを配位子とする多核錯体も数多く合成している。これらを組み合わせることによって、弱い相互作用により連結されたネットワーク構造を持つイオン性固体の構築を行う。また、新たなカチオン性錯体モチーフの構築を目指し、さまざまな配位環境を好む金属イオンを導入して新規錯体を合成する。弱い相互作用の柔軟性を利用した構造変換および物性変換に関する研究へと展開することを目指し、外部刺激に応答して構造変化を示す錯体を用いて、動的なネットワーク構造を構築する。さらに、この構造は、pH変化や小分子取り込み等の影響を受けやすいことが予想され、そのような外部刺激に応答する構造変換および物性変換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付決定時期が10月であったことが最大の理由である。本研究では、新規化合物の合成および物性測定を目的としており、そに際に用いる試薬および器具の購入を予定していた。しかし、研究遂行の時間が予定の半分と短かったために、主に物品費として申請した額を満たすことができなかった。また、旅費として申請した額も大幅に減額となっているが、これも交付決定時期によるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越した助成金は、主に物品費として使用する予定である。具体的には、新規化合物の合成に必要な器具および試薬を購入する予定である。また、研究代表者の所属変更に伴い、研究遂行に必要不可欠である「化合物の物性測定」については他研究機関にて測定する機会が増えることから、旅費としても使用する予定である。
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