研究課題/領域番号 |
15K05454
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
三方 裕司 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (10252826)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キノリン / イソキノリン / 蛍光センサー / 亜鉛 / モノリン酸 / カドミウム |
研究実績の概要 |
本年度の研究により、以下の3つの成果が得られた。 (1)蛍光により亜鉛イオンを定量検出するためのプローブを開発した。1-isoHTQHPNはほとんど蛍光を発しないが、1当量の亜鉛イオンの添加により475 nmにおいて蛍光増大を示した。さらに亜鉛イオンを添加すると蛍光強度の減少が見られ、合計2当量の亜鉛イオン存在下でほとんど蛍光を発しなくなった。1-isoHTQHPNが蛍光性の亜鉛単核錯体を経て、非蛍光性の亜鉛二核錯体へと変化していることを結晶構造より明らかとし、濃度既知の1-isoHTQHPNを用いることにより、蛍光強度の増大による鋭敏な亜鉛イオンの濃度の定量が可能であることを示した。 (2)リン酸イオンを蛍光で検出するプローブを開発した。HT(6-MeO8Q)HPNは亜鉛イオンと結合し、蛍光性二核錯体を形成するが、金属イオンとの親和性が低く、2当量の亜鉛イオン存在下において錯形成割合は50%程度であり、蛍光強度もそれほど高くない。そこへモノリン酸イオンを添加すると、蛍光強度が2倍になることを見いだした。ESI-MS測定およびX線結晶構造解析により、モノリン酸添加時に亜鉛四核錯体([Zn4(T(6-MeO8Q)HPN)2(μ4-PO4)]3+)を形成していることが明らかとなった。 (3)テトラキスキノリン誘導体TQLNが亜鉛イオンに特異的な蛍光センサーとして機能することを見いだした。さらに、TQLNの4つのキノリンを全てイソキノリンに置き換えた1-isoTQLNがカドミウムイオンに特異的な蛍光センサーとなることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キノリンおよびイソキノリンを基盤とする非常に単純な構造を有する化合物の探索から研究をスタートさせ、亜鉛イオンに対する選択性に優れた蛍光センサー1-isoHTQHPNの開発に至った。1-isoHTQHPNが蛍光性の亜鉛単核錯体を経て、非蛍光性の亜鉛二核錯体へと変化することを利用し、蛍光強度の増大による鋭敏な亜鉛イオンの濃度の定量が可能であることを示した。 また、類似の二核化配位子HT(6-MeO8Q)HPNが、2当量の亜鉛イオン存在下において、リン酸イオンに応答し、蛍光増大を示すプローブとなることを示し、リン酸を含む亜鉛四核錯体を形成することをX線結晶構造解析から明らかにした。これは(μ4-PO4)骨格を有する亜鉛四核錯体としては初めての例である。 さらに、TQLNのキノリンをイソキノリンに置き換えることにより、亜鉛イオンセンサーがカドミウムイオンセンサーに変化するという興味深い現象を見いだした。この選択性逆転は、錯形成比およびエキシマー形成効率の変化によりもたらされることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
キノリンおよびイソキノリンを基盤とする非常に単純な構造を有する化合物を発展させ、金属イオンおよびアニオン種を検出する蛍光センサーの開発を行う。特に、亜鉛イオンとカドミウムイオンの識別は重要課題であるため、TQLNの構造をヒントに更なる展開を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
教育に使用した試薬の伝票を誤って科学研究費から執行したことが判明したため、後日修正した結果残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は少額であり、翌年度分の助成金と合わせて予定通り執行する。
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