ジ(4-アミノフェニル)エーテルと4-ホルミルイミダゾールを1:2で反応させたビス二座型配位子を用いた三重らせん型鉄(II)2核錯体を水素結合を用いて自己組織化させた三次元集積化錯体の隙間の空間を利用し、キラル認識を実現するとともに、鉄(II)のスピンクロスオーバーを利用した分子センサーの開発を目指したが、この2核錯体はイミダゾールのpKaが高く、水素結合形成のための部分的脱プロトン化が出来なかった。そこでジ(4-アミノフェニル)エーテルをo- 及びp-ジアミノベンゼンに変えた新たな配位子を設計し、その鉄(II)錯体の合成に取り組んだ。このうち、o-ジアミノベンゼンを用いた配位子では、配位子と鉄の比が6:4の鉄(II)イオンが四面体型に配置した四核錯体を単離することが出来た。この錯体は室温では高スピン状態で、150 K 付近からその値がだらだらと減少する磁化率の挙動を示した。分子内の鉄イオン間の距離は十分離れているため、この挙動は鉄イオン間の反強磁性相互作用ではなく、不完全なスピンクロスオーバーであると結論付けた。そこで配位子の配位子場強度を増加させるため、イミダゾール環にメチル基を導入した新たな配位子を設計し、同様の四核錯体を合成した。この錯体は磁化率が減少し始める温度は上昇したものの、やはり不完全なスピンクロスオーバー挙動を示した。これらの磁化率の挙動は、配位子の両末端の二座配位部位の距離が近く、間にあるフェニル基同士が分子内π-π及びCH-πスタッキング相互作用して全体の構造を安定化しており、これが原因で、高スピン状態から低スピン状態への構造変化が妨げられたことによるものであると結論付けた。この結果は現在投稿準備中である。
|