本研究課題では、σ 電子受容性(Z 型)配位子の特性および機能解明により、その基礎学理の深化を図り、さらにそれらの知見を基に革新的な触媒反応を実現することを目的とした。その結果、以下に示す三つの重要な成果を得た。 1)σ 電子受容性ボラン配位子は、σ 電子受容性配位子としては特異的に遷移金属と共有結合的な結合を形成できることを明らかにした。また、その共有結合的な特徴から、他の σ 電子受容性配位子では構築できない幾何構造を与えることも見出した。 2)σ 電子受容性ボラン配位子の特徴を活かすことで、従来のものとは異なる機構により進行するパラジウムクロスカップリング反応を開発した。その反応は、従来のパラジウムカップリング反応ではしばしば形成困難である C-F 結合なども構築できることを見出した。 3)Si-F 結合は最も強固な単結合の一つであり (結合エネルギー:約 140 kcal/mol)、これまでに触媒的にフルオロシランの Si-F 結合を変換した報告はなかった。本研究では、フルオロシランが σ 電子受容性配位子として機能することに注目することで、フルオロシランの Si-F 結合を Si-C 結合へと触媒的に変換できることを見出した。さらに、その手法がフルオロゲルマンの Ge-F 結合、フルオロスタナンの Sn-F 結合の触媒的な変換反応にも適応できることを見出した。本手法は有機ケイ素、ゲルマニウム、スズ化合物を合成するための新しい指針となるものと期待している。
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